日本ガイシからNGKへの社名変更は、意外なところに影響を広げた。「日本ガイシスポーツプラザ」と呼ばれてきた名古屋市総合体育館は、名称変更を迫られた。
名古屋市の施設は、2007年に当時の日本ガイシがネーミングライツ(命名権)を得て、5年ごとに契約を更新してきた。現在の契約は27年3月末が期限となっており、途中の改名は想定していなかった。
市と調整、市民から意見募集
25年1月に社名変更の計画が発表されると、市は会社側が提案する新たな名称案について市民の意見を募集するなど、円滑な移行に向けて調整を進めた。新名称「NGKスポーツプラザ」への変更を26年1月に発表した広沢一郎市長は「長年親しまれたので市民から驚きの声が上がるかもしれないが、ぜひ親しんでほしい」と呼びかけた。
新たな名称は、NGKから分離した兄弟企業として知られる日本特殊陶業で、ちょっとした話題になった。日本特殊陶業の主力製品、自動車のエンジンを動かす点火プラグの名称は「NGKスパークプラグ」だ。ある社員は「体育館の名前とそっくりだ」とこぼす。
過去にも社名変更の動き
NGKが社名変更を試みたのは初めてではない。社史によると、1970年代に社名と事業内容のギャップを意識し、新社名として「エヌ・ジー・ケイ」が浮上した。これに対し、「NGK」を点火プラグに使う日本特殊陶業が反対したという。今回は、両社の調整を経て一転して実現に至った。日本特殊陶業は今、「地球を輝かせる」という意味を持つ「Niterra(ニテラ)」への社名変更の可能性を探る。2023年に「NGK SPARK PLUG」だった英文社名を「Niterra」へ変更し、国内外で通用するブランドとして浸透を図る。
法的リスクとブランド価値の見極め
新たな社名を決める際は、商標権の侵害などに十分注意する必要がある。特許権や商標権を扱う弁理士の経験がある牧野美保・司法書士は「一定の規模を持つ企業や海外展開を考える企業は、特に訴訟リスクを意識するべきだ」と指摘する。一度変更した社名を再び変える場合、多大なコストが生じるだけでなく、会社の信頼が損なわれる可能性がある。これまで築いてきたブランドの価値を見極め、新社名では法的リスクや外国語の発音などを含めて慎重に検討する必要がある。
かつら大手アデランスは、「男性用のイメージを覆す」との思いを込めて、10年に「ユニヘアー」に社名を変えた。それが思うように消費者に浸透せず、1年足らずで現社名に再び変更した経緯を持つ。不動産情報サービス大手LIFULL(ライフル)は、従来の社名「ネクスト」では海外で商標が取りにくいと判断し、17年4月、新規事業で利用実績のあった「Lifull」に社名を変えた。その約3か月後、ロゴの視認性などを考慮し、すべて大文字の現社名に再変更した。
ブランド構築には共感が必要
社名は、会社の「顔」となる。一般社団法人ブランド戦略経営研究所の陶山計介理事長(関西大名誉教授)は、「会社の存在意義を象徴的に表現するものだ」と指摘する。国内では、1960~80年代にCI(コーポレート・アイデンティティー)という言葉が流行し、社名変更やロゴの刷新が広がった。陶山氏は「社名変更は出発点にすぎない。ブランドを築くには、経営理念や今後の方向性を同時に伝え、社内外の理解や共感を得ることが欠かせない」と話す。



