生成AI(人工知能)によって作成されたキャラクターや楽曲などが既存の著作物と酷似し、著作権の侵害が疑われる事例が相次いでいる。政府が公表した、生成AIの事業者に順守を求める基本原則の最終案は、著作権を含む知的財産権の侵害を防ぐルールを定めたという点では一歩前進だが、物足りない。今後も実効性を高めていくことが不可欠だ。
基本原則の内容と対象
最終案では、AIに学習させたデータや、データ収集の目的などについて、その概要を自社のウェブサイトで開示するよう求めることにした。事業者ごとに知的財産権保護のための規定を作ることなども促した。
米国のグーグルやオープンAIなど、日本向けに生成AIサービスを提供する海外の事業者も対象となる。近く正式決定し、今秋にも運用を始める。
法的拘束力の欠如と問題点
ただ、基本原則には法的拘束力がない。事業者は自ら対応できない点があった場合、理由を公表すれば免責される。著作権侵害の歯止めとなるかどうかは疑わしく、不十分さは否めない。
特に、漫画や音楽、小説などの著作権者が事業者に対して開示要求できる内容を、著しく限定したのは問題だ。
当初案では、AIに学習させたデータの種類などだけでなく、非公開データや意思決定の手法を含めた詳細な開示を要求することを盛り込んでいた。だが、事業者の反発を受けて撤回したという。
事業者への配慮と今後の課題
最終案には、事業者が開示対象の項目を一部開示しなくても「直ちに批判することは慎むべきだ」とまで明記した。事業者が「過大な負担を課されると、AIの開発で競争力の低下を招く」と反論したことが影響したようだ。
政府は、新型コロナ流行時の給付金支給などに手間取ったという「デジタル敗戦」の思いを引きずる。遅れを取り戻そうと躍起のようだが、開発優先のあまり、事業者に配慮しすぎではないか。
基本原則が決定された後も著作権侵害の事案が続くようであれば、政府として罰則を設ける法整備をためらうべきではない。実際に欧州連合(EU)は、違反した事業者に制裁金を科すことができるようにしている。
知的財産権の侵害が疑われるケースが続くのは、政府が2018年に著作権法を改正し、著作権者の許諾を得ずにAIに学習できるようにしたことが要因だ。著作権法を再改正し、歯止めをかけることが欠かせない。



