「AIに言われた一言よりも、誰かに言われた一言のほうが、心に残ると思うんです」――そう語るのは、84歳のPR会社創業者・高橋恵さんだ。高橋さんは、相手を思って半歩だけ踏み込む「愛あるお節介」を、いま一度、日本から世界へ届けたいという夢を持っている。
「愛あるお節介」の精神を再発見
かつては日常の風景だったその精神を、令和の時代に再発見しようというのが高橋さんの主張だ。お気に入りの黄色い椅子に座り、赤いワンピースがよく似合う高橋さんは、仲間とおそろいの「OSEKKAI」Tシャツを着て街でゴミ拾いをするなど、活動を続けてきた。
とはいえ、何かと「ハラスメント」と受け取られかねない昨今。余計なことを言わないほうが安全だと、声をかけるのをためらう人も多い。だが、相手の反応を見ながら差し出す節度あるお節介が、人を救うこともあると高橋さんは説く。
医師の後悔と無料自習室の活動
高橋さんには、医師の仲間から聞いた忘れられない話がある。その医師は恩師を亡くした後、「もっと早く声をかけていれば」と悔やんだという。病院は、具合が悪くなって初めて訪れる人が多い。身近な人ほど変化に気づいても、どこまで踏み込んでよいか迷う。それでも「最近、少し疲れていない?」のひと言が受診のきっかけになり、病気が深刻になる前の予防線になることがある。
別の仲間は、地域の子どもたちのために毎朝、無料の自習室を開いているという。活動を始めて6年。普段は大学教授をしているその人は、「日本の自殺を減らしたい」という強い思いが活動の出発点だった。自習室が開くのは毎朝6時45分。学校へ行きづらい子を含め、一人でも多くの子どもに学ぶ楽しさと機会を届けたいと、報酬を受け取らずに続けている。
AIにはできないお節介
教育格差を少しでも埋め、子どもの心身を支えたい。その願いは、効率だけでは測れない。孤立しがちな時代だからこそ、「自分を気にかけてくれる大人がいる」と伝わる場所が必要なのだ。「あたたかなまなざしを注いでくれる大人がいる」、そう知るだけでも、自殺を思いとどまる一つのきっかけになるかもしれない。
最近はAIに相談する人も増えている。AIに相談をするのは、頼れる人がいないのも原因なのではないかと危惧する。AIは悩みを伝えればすぐに答えが返ってくる。気を使うこともなく、思う存分相談ができる。そういう意味ではこれほど便利な道具はない。ただ、高橋さんは、人からもらう言葉には別の重みがあるという。人間の場合、耳当たりのよい答えばかりではなく、時には厳しいことも言ってくれる。その言葉の重みこそが、AIにはできないお節介の価値なのだ。



