今年5月、ハンガリーの首都ブダペストの観光エリア内にある内務省本庁からマジャル・ペーテル新首相(45)が姿をあらわすと、待ち構えていた人々から「キャー!」という黄色い歓声が上がり、一斉にスマホが向けられた。行く先々でサインやセルフィを求められるなど、歴代首相では見られなかった光景が広がっている。
無名からスターへ:マジャル新首相の台頭
このマジャル、実は2年半前までほぼ無名だった。当時は、後に打倒することになるオルバーン前首相率いる「フィデス=ハンガリー市民党」に所属していた。元は外交官で、国営企業の社長などを務めた経歴を持つが、前妻であるヴァルガ・ユディット元司法相の方が知名度ははるかに高かった。
転機となったのは2024年2月に発覚した大統領の不祥事。フィデスと決別したのはこのときで、政権の腐敗や利権構造について公然と批判を開始した。批判の内容は、独立系メディアや野党が繰り返し指摘してきたことと同様ではあったが、「外からの批判」にすぎなかったものが「内側にいた人間による暴露」へと質的に変わったことから、この新潮流を生みだしたマジャルという人物に人々の関心が向かったのだった。
前政権の腐敗と内部告発
オルバーン前政権は、政権批判者に対して「外国エージェント」とレッテルを貼り、独立系メディアを締め付けるなど、民主主義の後退が指摘されていた。マジャル新首相は、自身が所属していた党の内部から、こうした腐敗や利権構造を詳細に暴露。その告発は、国民の間に大きな衝撃を与え、政権交代への機運を一気に高めた。
ハンガリー在住ジャーナリストの鷲尾亜子氏によると、「マジャル氏の告発は、単なる内部告発にとどまらず、具体的な証拠に基づいていたため、国民の信頼を獲得した」という。この内部告発により、マジャル氏は瞬く間に国民的英雄となり、今年5月の選挙で圧勝し、首相の座に就いた。
草の根運動と国民の支持
マジャル新首相の支持基盤は、既存の政党や組織ではなく、草の根で動いた有権者自身である。SNSや街頭集会を通じて、国民自らが情報を広め、支持を集めた。この動きは、従来の政治エリートに対する不信感を背景に、新しい政治スタイルを求める国民の声を反映している。
マジャル氏は就任後、腐敗の一掃と透明性の向上を公約に掲げ、実際に内務省本庁から姿を現すなど、象徴的な行動をとっている。国民からの熱狂的な支持は続いており、今後の政治運営が注目される。



