正論が人を追い詰める「ロジハラ」とは?
職場で「論理的に正しいこと」を言われただけで、動悸や冷や汗が止まらなくなる――そんな経験はないだろうか。近年、感情的な叱責やパワハラだけでなく、「正論」そのものがハラスメントになるケースが増えている。日本メンタルアップ支援機構代表理事の大野萌子氏は、これを「ロジックハラスメント(ロジハラ)」と定義する。ロジハラとは、論理や正しさを武器に相手を黙らせ、心理的に追い詰めるコミュニケーションのこと。言っている内容は正しいことが多いため、部下は反論できず、静かに追い詰められていく。
上司に詰められ続けた2人の事例
入社5年目のAさんは、打ち合わせのたびに胸がざわつくようになった。上司から怒鳴られたことは一度もない。むしろ、淡々と冷静に「正しいこと」を指摘されるだけ。「この判断の根拠は?」「論理的に考えれば、こうなるよね」――言葉は正論で、表情も穏やか。しかし、Aさんの事情や迷いが語られる余地はなく、いつも「詰められている感覚」だけが残る。反論すれば感情論と切り捨てられ、黙れば理解不足とみなされる。どちらに転んでも責められる閉塞感の中で、Aさんは次第に打ち合わせそのものが怖くなり、上司と話すだけで冷や汗が出るようになった。
別の事例では、中堅社員のBさんが、プロジェクトの進め方について上司から「論理的に考えて、この方法が最適だ」と指摘され続けた。Bさんは現場の事情を考慮した別案を提案しようとしたが、上司は「データで示せ」と要求。Bさんはデータ収集に時間を取られ、本来の業務に支障をきたした。上司の言い分は論理的だが、Bさんの経験や直感を無視した結果、チームの士気は低下した。
ロジハラ上司に見られる4つの傾向
大野氏によると、ロジハラ上司には次のような傾向が見られる。1つ目は「完璧主義」で、ミスを許容せず、常に最適解を求める。2つ目は「コミュニケーションの一方通行」で、部下の意見を聞かずに自分の論理を押し付ける。3つ目は「感情の欠如」で、部下の気持ちを考慮せず、事実だけを突きつける。4つ目は「正義感の強さ」で、自分が正しいと信じて疑わないため、指導がエスカレートする。
正論をロジハラにしないために意識すべき4つのこと
では、どうすれば正論が人を追い詰めるのを防げるのか。大野氏は以下の4点を挙げる。第一に「目的を明確にする」こと。指導の目的は相手を成長させることであり、論破することではない。第二に「相手の状況を聞く」こと。論理を展開する前に、部下の事情や感情を理解する。第三に「選択肢を示す」こと。一つの正論に固執せず、複数の解決策を提案する。第四に「フィードバックを双方向にする」こと。部下が反論や疑問を言いやすい雰囲気を作る。
自衛隊でもメンタルチューニングの一環として、ロジハラ防止の研修が導入されている。論理的な指導は必要だが、それがハラスメントにならないよう、上司自身が自覚を持つことが重要だ。職場のコミュニケーションを見直し、正論が人を追い詰めるのではなく、活かす方向へと変えていきたい。



