第68次南極観測隊で野外観測支援(FA=フィールド・アシスタント)を担当する越冬隊員、石沢孝浩さん(59)は山形市の郊外で生まれ育った。雪深い山あいの暮らしや山岳ガイドなどのアウトドアに関連する仕事…経験の全てが極地勤務のためとも言えそうな石沢さんは11月に出発する。
日本から1万4000キロ離れた昭和基地で任務を終え帰国するのは、1年4カ月後の再来年3月という長丁場。極寒の地で仕事に臨む意気込みや楽しみは-。
2度目の挑戦で合格
南極観測隊を意識したのは、仕事を通じて経験者と知り合う機会が多かったからかな。それがきっかけでFAの公募に挑みました。でも、5年前に1度落ちています。「いい思い出ができた」という感じでしたが、頭の片隅に少し思いが残っていたんですね。昨年12月に2度目の挑戦を打診され「また駄目なら諦めがつく」と、締め切り直前に書類を送りました。
東京・立川の国立極地研究所で受験し山形に帰る途中、新幹線の車内で合格の連絡をもらいました。最初は実感が湧かなくて…。家族の説得が大変だと思いました。ところが、妻に相談すると「いいわよ」。息子と娘にメールをしたら「あ、そう」「良かったね」と。母親くらいは止めるかと思ったら「いってらっしゃい」で…。みんなあっさりしてました。
一番怖い「慣れ」
FAの仕事は観測隊の安全管理です。昭和基地を離れ野外で活動する観測隊員は危険と隣り合わせ。雪上車やスノーモービルで移動する際、南極大陸には氷の割れ目「クレバス」が隠れています。海氷も割れることがあります。危険を避ける知識や訓練、装備は欠かせません。
一番怖いのは「慣れ」。これを常に意識しないといけません。油断しないよう神経を切らさないのは難しいことです。周囲が盛り上がる中で、いかに冷静でいられるかが肝心。「自分だけは浮かれてはいけない」という場面では、絶対に守り通さなければいけません。何気ないことが大きな事故につながりますから。
ブリザードが吹き荒れれば自分のいる場所も分からなくなります。そんな時には、人工衛星の電波を受信して位置を特定するGPSが役立ちます。機器を駆使して「絶対安全」を確保した上での活動が大前提になります。越冬中にはクレバスに落ちたことを想定した救助訓練などもやろうと考えています。
夢はペンギンと会話
ただ、緊張しているばかりでは体がもちません。メリハリが必要です。専用の短いスキーで雪上を歩いたり登ったりする、スノーハイクを観測隊の仲間と南極でやりたいですね。あと、かなえたい夢がひとつあります。それは「ペンギンとの会話」。日本の山ではニホンカモシカによく会います。彼らは目が悪いからか、こちらを見てじっと立っていることがあります。そんな時、自分から語りかけています。
これを面接試験で話し「1人が好きなので(極地の孤独な生活も)大丈夫です」とアピールしたら「ストレスはどうやって発散しますか」と聞かれました。「カモシカはいないけどペンギンがいますよね?」と答えて、面接官に笑われました。でも、本当に「ペンギンとコミュニケーションが取れたらいいな」と考えています。
楽しみもありますが重要なのは「みんな一緒に無事に帰る」こと。それに尽きます。自分1人ではできないことなので、事前に行っている研修や訓練でも重点的に話しています。今、59歳で越冬中に還暦を迎えます。山岳ガイドを始めて約30年。体力的にいつまでもできる仕事ではありません。ゴールが見えてきたところで、これまでの経験を南極観測の現場で生かすことができれば集大成になります。できる限りの貢献をしたいと思います。