言論統制下のロシアで、政権批判を秘めた演劇がひっそりと続けられている。題材は英古典劇「ハムレット」。原作では思い悩みながらも復讐を遂げる主人公だが、今作では一人もあやめずにその生涯を終える平和主義者として描かれる。ウクライナの「ウ」の字も出ないが、暴力による報復を拒む主人公の姿に、戦争を続けるプーチン政権への異議を重ねたことは明白だ。政権批判を寓話に託すソ連時代の表現手法が、プーチン政権下の現代ロシアに復活した。
平和主義者ハムレットはデンマーク王子
ハムレットはデンマーク王子ハムレットを主人公に据えたシェークスピアの代表作のひとつ。亡き父王の霊がハムレットの前に現れ、自分を殺した弟で、ハムレットの叔父にあたる新王への復讐を命じる。ハムレットは苦悩と逡巡を重ねた末、最終的に叔父を殺して父の無念を晴らす、という筋書きだ。主人公を含む登場人物が終盤にかけて次々と命を落とす悲劇として知られる。
ロシア版は原作とかけ離れたストーリー
ロシアの首都モスクワのタガンカ劇場では、昨年4月からロシア版ハムレットの上演が始まり、ロングランとなっている。そのストーリーの一つ一つは原作とかけ離れており、ウクライナ戦争への強烈な反対メッセージが見て取れる。作中でハムレットは、自分の命を差し出してでも人を殺さない平和主義者として描かれる。決闘にも剣ではなく木の枝を持ち出す徹底ぶりだ。ウクライナ戦争への従軍を求めるプーチン大統領の要求から逃れようとする現在のロシア国民のようだ。
このハムレットが復讐を果たさずに恋人とうつつを抜かす点も、政権を表立って支持も反対もせずに政治そのものから距離を置くロシアの若者の姿に重なる。原作ではハムレットとともに命を落とす新王は、ロシア版ハムレットでは生き残る。ヘッドホンを耳にあて、英歌手ジョン・レノンが「イマジン」で平和を求める歌声に聞き入る場面で幕を閉じる。その姿は周囲の助言に耳を貸さないプーチン大統領の現状を想起させる。
スターリンが嫌悪 「優柔不断」を問題視?
この作品は、ソ連時代にスターリンが嫌悪したとされる「優柔不断」なハムレット像を逆手に取ったとも解釈できる。政権批判を寓話に託す手法は、ソ連時代の表現方法の復活とみられる。



