7月4日、香港船籍の超大型原油タンカー(VLCC)「ロングウインド号」がペルシャ湾内で錨を上げ、ホルムズ海峡を抜けて韓国のオンサン港に向かった。同号はペルシャ湾内に足止めされていた最後の中国系VLCCであり、湾内を航行または停泊している中国系VLCCはこれでゼロになった。
オマーン湾の“水上原油マーケット”
ところが、ホルムズ海峡の出口にあたるオマーン湾には対照的な光景が出現していた。中国のエネルギー海運大手の中遠海運能源運輸(コスコ・シッピング・エナジー・トランスポーテーション)や招商局能源運輸(チャイナ・マーチャンツ・エナジー・シッピング)などが運航するVLCCが、一斉に集結していたのだ。これらのタンカーは、オマーン湾で「瀬取り」と呼ばれる海上での原油積み替えを行い、国際制裁を回避する「影のタンカー船団」として機能している。
フジャイラ港の錨地では、タンカー間で原油の積み替えが日常的に行われており、この水域は事実上の「水上原油マーケット」と化している。関係者によると、こうした活動は近年急拡大しており、特に2025年以降、その規模は著しく増大している。
秘密作戦に賭けたUAE
この影のタンカー船団の背後には、アラブ首長国連邦(UAE)の秘密作戦が存在するとみられている。UAEはフジャイラ港を拠点に、制裁対象国からの原油輸出を支援する役割を担っている。UAE当局は公式には関与を否定しているが、複数の海運関係者は、UAE政府が暗黙のうちにこれらの活動を容認し、場合によっては積極的に支援していると証言する。
「UAEは地政学的リスクを利用して、自国の港湾を国際原油取引のハブに位置付けようとしている」と、中東情勢に詳しいアナリストは指摘する。フジャイラ港はペルシャ湾の外側に位置し、ホルムズ海峡の封鎖リスクを回避できる戦略的な利点がある。
6月の輸出量は過去最高
影のタンカー船団の活動拡大により、制裁対象国の原油輸出は過去最高を記録した。2026年6月の輸出量は、前年同月比で約30%増加し、1日あたり150万バレルに達した。この数字は、2018年の制裁発動前の水準を上回る。
「6月の輸出量は過去最高でした。影の船団がなければ、これほどの量を市場に供給することはできなかったでしょう」と、国際エネルギー機関(IEA)の関係者は匿名で語った。
開戦直前にタンカーを“爆買い”
影のタンカー船団の急拡大の背景には、2025年後半から2026年初頭にかけての「タンカー爆買い」がある。複数の海運ブローカーによると、正体不明のバイヤーが中古のVLCCを市場価格を大幅に上回る価格で買い漁り、その数は50隻以上に上る。
これらのタンカーの多くは、船籍を変更し、保険や衛星追跡システムをオフにして「影の船団」に加わった。買い手の一部は韓国の海運会社と関係があるとされ、同国の海運業界がこの作戦に深く関与している可能性が浮上している。
世界のエネルギー市場に影響
影のタンカー船団の活動は、世界のエネルギー市場に多大な影響を及ぼしている。制裁対象国の原油が市場に流入することで、国際原油価格は下落圧力を受けている。一方で、制裁の実効性は低下し、地政学的リスクは増大している。
「これは国際秩序の激動を象徴する出来事です。制裁の抜け穴が常態化すれば、エネルギー市場の安定性が損なわれる」と、エネルギー安全保障の専門家は警告する。
シノコーとMSCに莫大な利益
影の船団の活動から最も恩恵を受けているのは、中国の独立系精製業者「シノコー(中国石化集団)」や、スイスに本拠を置く商品取引大手「MSC(メルキュリア・エナジー・グループ)」などとみられる。これらの企業は、割引価格で原油を調達し、精製・転売することで莫大な利益を上げている。
「シノコーは影の船団から原油を購入し、精製製品を国際市場で販売しています。このビジネスモデルは非常に収益性が高く、同社の2026年第2四半期の利益は前年同期比で倍増した」と、業界関係者は明かす。



