米同時テロから25年。ニューヨークの世界貿易センター(WTC)跡地「グラウンド・ゼロ」は、再開発によって大きく姿を変えた。今年7月9日には新たな商業ビル「ツー・ワールド・トレード・センター(2WTC)」の起工式が行われ、2031年の完成予定だ。55階建てで、大手クレジットカード会社が世界本社を置き、最大1万人が働く見込み。市当局は約114億ドル(約1兆8000億円)の経済効果を見込む。
住宅化が加速、人口は3倍に
再開発事業は06年完成の7WTCを手始めに、計4棟の超高層ビルが完成。約6・5ヘクタールの敷地には追悼施設や記念博物館、舞台芸術施設も整備された。2WTCが完成すれば再開発は大きな区切りを迎える。
かつてこの一帯は金融系企業が集まり、昼間は会社員で混み合う一方、夜は人通りが減る「働く人の街」だった。しかし、同時テロ後は金融系企業の移転やオフィスビルの住宅転用が進み、住宅街への転換が加速。同時テロ前に約2万3000人だった周辺人口は、現在では7万人を超える。
「地域のつながりは薄れていった」
この地区に30年以上住む建築家のアリス・ブランクさん(70)は、同時テロ前は様々な家庭環境の子供たちが同じ公立学校に通い、地域のつながりが強かったと振り返る。現在のグラウンド・ゼロ一帯は家賃、世帯所得ともにマンハッタン島内で最高水準にあり、住宅価格の上昇とともに地域社会のつながりは薄れていったと感じている。
再開発の影響は近くのチャイナタウンにも及んだ。この25年間で多くの店が姿を消し、跡地には超高層マンションやホテルが建った。家賃高騰で住民が離れる中、再開発反対運動に携わる中国系の寧子舜(ニンズーシュン)さん(35)は「不動産開発ではなく、人々の暮らしを優先する街になってほしい」と話す。
経済基盤の多様化と課題
NY大研究員(都市計画)のフィリップ・プロッチ氏は、WTC再開発の主な目標は単なるオフィス街ではなく、週末も含めて24時間活動のある地域にすることだったと指摘。公共空間や公園、文化・商業施設、追悼施設を整備し、交通も改善した。同時テロ以前は金融業への依存が強かったが、現在は広告やソフトウェア、観光、居住など経済基盤が多様化したという。
一方、成功に伴い手頃な住宅の不足などの問題も生じた。プロッチ氏は「住みたい人が増え、需要は非常に高く、どれだけ住宅を建てても多くの人にとって手が届きにくい」と述べ、住宅化は以前から進んでいたが、同時テロとコロナ禍がその流れを加速させたと説明する。再開発はまだ完成しておらず、金融危機やコロナ禍、ハリケーンのような予想外の出来事が今後も街を変えるだろうとしている。



