2026年7月にトルコ・アンカラで開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会議(サミット)では、トランプ米大統領と欧州諸国の間で防衛費負担やグリーンランド領有権を巡る意見対立が表面化した。しかし、フィンランド政府系機関「ビジネス・フィンランド」のシニアアドバイザーを務めるサリ・アルホ・ハブレン氏は、こうした対立は表面的なものであり、欧州が通常防衛の負担を増やす「NATO3.0」への移行が着実に進んでいると指摘する。
サミットの評価とトランプ氏の発言
ハブレン氏は今回のサミットについて、「トランプ氏のグリーンランド領有やスペイン批判の発言はほぼノイズのようなものだった」と述べ、参加者からは会議室外と室内で雰囲気が全く異なっていたと聞いたと語る。トランプ氏はショーを続けたが、会議室内ではトランプ氏を含む参加者の間にかなり強い結束感があったという。
同氏は「今回のサミットは重要だった。政治的な継続性と戦略の移行を示したからだ。より深いメッセージは、欧州が通常防衛の負担を多く担うことを受け入れたことだ。もはや実現するかどうかの議論ではない。『NATO3.0』は明らかに進行中だ」と強調した。
NATO3.0とは何か
ハブレン氏の説明によれば、NATO3.0は欧州諸国が通常防衛を担当し、米国が核の傘を含む拡大抑止力を提供する新たな枠組みである。これは、従来の米国主導の安全保障体制から、欧州の責任分担を拡大する方向へのシフトを意味する。
同氏は、西欧諸国がかつて批判した「フィンランド化」(中立化による生存戦略)が、現在では欧州全体の安全保障戦略として再評価される可能性にも言及した。ただし、今回のインタビューでは詳細な議論は行われていない。
ウクライナ戦争とNATOの役割
サミットではウクライナ情勢も主要議題となった。トランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領は会談を行い、写真に収まった。ハブレン氏は、ウクライナ戦争がNATOの戦略転換を加速させたと指摘。欧州諸国は自国の防衛力を強化し、米国の負担を軽減する必要性を認識しているという。
一方で、同氏は「欧州は強さを現実にすべきだ」と述べ、軍事力の増強だけでなく、政治的結束と戦略的一貫性が重要だと強調した。
今後の展望
ハブレン氏は、NATO3.0の実現には時間がかかるものの、方向性は明確だと語る。今後の課題として、防衛費の増額や装備の標準化、そして欧州内での意思決定の迅速化が挙げられる。また、米国の核抑止力への依存を維持しつつ、欧州の通常戦力を強化するバランスが求められる。
この連載「読み解く 世界の安保危機」では、牧野愛博専門記者がウクライナ、イラン、台湾、北朝鮮、サイバー空間、気候変動など多岐にわたる安全保障問題を、国内外の識者へのインタビューを通じて解説している。



