南東欧アルバニア北部の集落ジャデル。5月、家畜の臭いが漂う山道を上っていくと、鉄製の高い塀に囲まれた建物が現れた。欧州連合(EU)非加盟国にもかかわらず、EU旗がなびき、イタリア警察の車両が出入りする。イタリアに密入国を試みた不法移民らを収容する施設だ。
EU初の第三国送還の仕組み
運用は2024年10月に始まった。難民申請が却下された人や不法滞在者が収容される。第三国に送り出す仕組みは、EUで初めてとなる。施設の男性職員は「ここは、非EUの山奥だ。再びイタリアを目指すものなどいない」と話した。
EU圏内で難民申請の審査を待つ人は、今年6月時点で77万人。却下されても7~8割が強制送還されないまま欧州各地に散り、不法移民増加の要因となってきた。
移民排斥論の広がり
EU加盟を目指すアルバニアには、恩を売る狙いがある。人権団体は強制移送を「極めて非人道的だ」と批判するが、メローニ伊首相は「不法移民の革新的解決策だ」と自賛する。
EU理事会も10月、イタリアをモデルに、アフリカなどの域外に不法移民を収容する「リターンハブ施設」の設置法を採択した。ナチスの歴史を経て、寛容を貫いてきたドイツも3月、「シリア難民の80%は帰国すべきだ」(メルツ首相)と転じた。
寛容な欧州の規範が揺らぐ
元々、欧州は第2次大戦後、一時的な労働力として大量の移民を受け入れた。「移民に寛容であれ」との規範は受け継がれ、シリア内戦に伴う15年の難民危機では130万人が渡欧した。当時のジャンクロード・ユンカー欧州委員長は演説で「欧州人はほぼ全ての人が難民となったことを忘れてはいけない」と訴えた。
だが、新型コロナ禍による物価高や、ロシアのウクライナ侵略は社会不安を高めた。この10年間で、EU加盟国の3分の2で右派政党が急伸した。右派ポピュリストは異口同音に「移民が雇用を奪い、治安を悪化させた」と移民に批判の矛先を向ける。移民が労働力として欧州経済を支えている事実には、口をつぐむ。
調査会社ユーガブが昨年、英仏など6か国で行った調査では「不法移民は欧州の価値観を共有していない」と答えた人は71・2%に上った。ポピュリズム的な移民排斥論は、選挙で「票」を生み、強硬右派の力の源泉となる。移民に寛容な欧州は昔話になりつつある。