世界的なAIブームによりデータセンターの建設ラッシュが各地で発生し、必要となる電力を巡る「クリーン」エネルギーの争奪戦が白熱している。その陰で、マレーシア・サラワク州の先住民コミュニティが犠牲になっている実態が浮き彫りになった。
マレーシアのデータセンター需要急増と電力価格の変化
マレーシアでは、AI関連のデータセンター需要が急増。西マレーシア側(クアラルンプールなど)では2025年7月の電気料金改定で、データセンターが「超高圧帯」に分類され、電力コストが10~15%上昇した。一方、水力発電によりマレーシアで最も電気料金が低い州であるサラワクは、国内での優位性が高まり、世界最高水準のコスト競争力を持つ地域となった。
サラワク州を中心としたAIデータセンターハブ化戦略
サラワク州の発電能力と地政学的立地を背景に、マレーシア政府は国を挙げてAIデータセンターの「ハブ化」を目指す戦略を推進している。デジタル大臣のゴビンド・シン・デオ氏は2026年6月、「サラワクはマレーシアがAI国家になるための重要なリーダーシップを握っている」と明言した。
サラワク州都クチン市にある「コタ・ペトラ・グリーン・テクノロジー・パーク(KPGTP)」は、東京ドーム約260個分に及ぶ巨大なハイテク産業複合施設だ。2027年12月の商業運転開始を目指し、300MWの太陽光発電所と600MWhの蓄電システムを動力源に、AIデータセンター6施設を含むハイテク施設として整備される予定である。
KPGTPはサラワク・エナジーと長期の売電・買電契約(PPA)を結んでおり、同州の豊富な水力で発電された電気を夜間や悪天候時のバックアップとして利用可能。この「ハイブリッド」方式により、100%再生可能エネルギーによるデータセンターの常時稼働が実現する。
さらに2026年5月には、東京ドーム約86個分の「クチンAIデータキャンパス」建設計画が発表された。水力発電による余剰電力を活用し、より電力消費量の大きいデータセンターや半導体工場を誘致する計画だ。これは同州が掲げる「AIグリッド戦略」の中核として位置付けられ、独自の給水・送電インフラを備え、AIの超高速計算ネットワークを制御する拠点となる。
マレーシア政府のAI優先政策と日本企業の進出
マレーシア首相のアンワル・イブラヒム氏は2026年2月、AI関連ではないデータセンターの承認を2年間停止し、今後はAI関連案件を優先的に審査すると表明した。これにより、AI関連データセンターを建設したいグローバル企業にとって、豊富で安価な電力を持つサラワク州の価値がさらに高まった。
サラワクの安価で豊富な電力を利用して計画されるプロジェクトには、アメリカ企業や中国系企業だけでなく、日本企業も名を連ねている。日本企業の存在感が強まる中、先住民への影響が懸念されている。
水力発電ダム建設による先住民への影響
サラワク州では、データセンター向けの電力を供給するため、大規模な水力発電ダムの建設が進められている。しかし、これらのダム建設により、先住民コミュニティが伝統的な生活の場を追われ、土地や水源を失う被害が発生している。先住民の権利を守る活動家は、「開発の名の下に、私たちの生活と文化が破壊されている」と訴える。
クリーンエネルギーとされる水力発電だが、その恩恵は主に外部の企業や都市部に及び、地元の先住民は負の影響を強いられている。この矛盾は、AIブームがもたらす環境・社会問題の一端を示している。



