創薬競争の構図が激変:米中二極時代の到来
世界の創薬業界は、中国の急速な台頭により、従来の「アメリカ一強」から「米中二極体制」へと移行しつつある。この流れの中で、日本の製薬産業は相対的な競争力を低下させており、国際的な創薬競争から取り残される懸念が強まっている。野村香織氏(福島県立医科大学 ふくしま国際医療科学センター 准教授)は、「日本は100年以上前に創薬立国としての道を歩み始めたが、今やその地位が揺らいでいる」と指摘する。
日本の薬価の低さがもたらす「ドラッグ赤字」
日本市場における医薬品の価格は、他の先進国と比較して低い傾向にある。特に、トランプ前大統領が2025年に署名した「MFN(最恵国待遇)政策」では、同一製品のOECD諸国での薬価比較が行われ、日本の薬価の低さが顕著に示された。この政策は米国の薬価を他の先進国に合わせて引き下げることを目的としていたが、結果として日本の薬価の低さが国際的に浮き彫りとなった。累次の薬価改定により、特許期間中であっても価格は下がり続けており、海外企業が日本で新薬を開発・販売するインセンティブは薄れている。
「ドラッグロス」拡大のリスク
最も懸念されるのは、海外で承認されている薬が日本では承認されない「ドラッグロス」の拡大だ。グローバル展開を前提とした医薬品開発は、国際標準に準拠した厳格な規制下で進められる。日本で早期臨床試験が実施されない、あるいは国際共同治験に参加しない場合、国内での新薬実用化の可能性は遠のく。これが「ドラッグラグ」(承認の遅れ)や「ドラッグロス」の要因となる。野村氏は「この状態が続けば、日本は中国発の新薬を入手できないリスクに直面する」と警告する。
中国発新薬の台頭と日本の対応
抗がん薬の候補の約4割が中国発というデータがあり、中国の創薬力は急速に向上している。一方、日本企業は「買う側」から「共同開発する側」へとシフトする必要があるとされる。しかし、薬価の低さや規制の壁が障害となっている。日本が創薬競争に再び参入するためには、薬価制度の見直しや国際共同治験への積極的な参加が求められる。野村氏は「日本はもはや単なる市場ではなく、共同開発のパートナーとしての役割を強化すべきだ」と提言する。
今後の展望:処方箋はあるのか
日本の製薬産業が直面する課題は深刻だが、解決の糸口はある。薬価の適正化、規制の国際調和、そして産学連携による基礎研究の強化が鍵となる。特に、アカデミアと産業界の連携を強化し、革新的なシーズを創出することが重要だ。野村氏は「日本にはまだ強みがある。それを活かすための戦略的な政策が必要だ」と結論づける。



