AIがホワイトカラーの雇用を奪う懸念が世界的に高まる中、中国のエンジニアたちは自らのスキルをAIにコピーされないための「反蒸留スキル」を競い合っている。本誌の報道によれば、米国では過去3カ月間でAIに仕事を代替され解雇されたエンジニアが5万人以上に上るという。社会主義を掲げる中国でも、多くの企業で「AIによる人材の代替」が深刻な問題となっている。
「同僚.スキル」プログラムが引き金に
今年3月、ソフトウェア開発プラットフォームGitHub上で公開された「colleague.skill(同僚.スキル)」というオープンソースプログラムが話題を呼んだ。このプログラムは、高いスキルを持つ従業員のメール、業務文書、SNSのチャット、ミーティング記録などを自動収集し、そのデータを基に従業員のスキルや業務の進め方、メールの受け答えの特徴までをAIに学習させる。いわば、従業員の存在全体をAIで代替可能にするものだ。
同僚.スキルは公開から10日余りで「いいね」が1万5000件を超え、AIによるスキルコピーを指す「蒸留」という言葉が流行語となった。本来「蒸留」は、あるAIの膨大な学習データのエッセンスを別のAIにコピーし軽量化する技術を指すが、ここでは人間のスキルをAIに吸い上げる意味で使われている。
エンジニアの不安と反蒸留スキルの登場
このプログラムの登場に、中国のエンジニアたちは強い危機感を抱いた。自らのスキルが無断でコピーされ、自分自身が不要になる可能性があるからだ。そこで生まれたのが「反蒸留スキル」という概念だ。これは、AIに学習されにくい業務の進め方や、意図的に非効率なコードを書くなど、AIにスキルを奪われないための技術や行動パターンを指す。
神戸大学大学院の梶谷懐教授は「中国のIT業界では、AIによる代替を恐れるエンジニアが、自らのスキルを意図的に隠したり、複雑化する傾向が見られる。これは企業全体の生産性を低下させる可能性がある」と指摘する。
AIと人間の競争がもたらすジレンマ
AI関連産業の成長が著しい一方で、雇用喪失への懸念は現実のものとなりつつある。中国政府はAI技術の活用を推進する一方、雇用対策にも注力しているが、現場レベルではエンジニア同士の「仁義なき戦い」が始まっている。
同僚.スキルの開発者は「このプログラムは単なるツールであり、人間のスキルを尊重する形で使われるべきだ」とコメントしているが、実際には企業がコスト削減のために導入するケースが増えている。ある中国のIT企業の人事担当者は「優秀なエンジニアのスキルをAIにコピーできれば、人件費を大幅に削減できる。しかし、その結果、エンジニアのモチベーションが下がり、離職率が上がるという副作用もある」と語る。
今後の展望:スキルの価値が問い直される
中国のエンジニアコミュニティでは、AIに代替されないスキルとして、創造性や対人コミュニケーション能力、複雑な問題解決能力などが再評価されている。また、一部のエンジニアは「反蒸留スキル」を磨くことで、AIとの共存を模索している。
しかし、こうした動きは長期的に持続可能なのか疑問視する声もある。梶谷教授は「AI技術の進歩は速く、人間が意図的に非効率に振る舞っても、いずれAIがそれを学習してしまう可能性がある。根本的には、人間とAIの役割分担を再定義する社会的合意が必要だ」と述べている。



