人類史の不平等是正は「暴力的衝撃」のみ、再分配の限界に挑む古代史家
人類史の不平等是正は「暴力的衝撃」のみ、再分配の限界

人類史において、経済的不平等を大幅に是正してきたのは戦争や疫病、革命といった「暴力的な衝撃」だけだ――。米スタンフォード大学教授で古代史家のウォルター・シャイデル氏(60)は、2017年の著書『暴力と不平等の人類史』でこう指摘し、平和裏に平等化が進んだ歴史は存在しないと論じた。富の偏在が加速する現代、私たちは不平等といかに向き合うべきか。英ケンブリッジ大学での研究休暇中にインタビューに応じたシャイデル氏に聞いた。

「平等化の4騎士」とは何か

シャイデル氏は著書の中で、数千年来、文明がもたらした平和的な平等化は一度もなかったと断言する。「古代エジプト、ローマ帝国、米国に至るまで、社会が安定すればするほど経済的不平等は拡大した。既存の秩序を破壊し、所得と富の分配の偏りをならし、貧富の差を縮める大きな役割を果たしたのは、大量動員戦争、革命、国家の破綻、伝染病の大流行という『平等化の4騎士』だ」と説明する。

日本の事例:戦後平等化の教科書

特に著書では一章を割いて日本の事例を詳述している。「日本は教科書的な事例だ。戦中の物理的破壊と、戦後の財閥解体、労働組合の結成、農地改革が所得と富の分配を劇的に平準化した。エリート層の所得に限れば、日本は1929年の大恐慌前夜の米国と同じくらい不平等な社会から、上位所得シェアで現代世界で最も平等な北欧諸国に匹敵する社会へと変貌した」と語る。

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富の集中:ミニバン1台に世界の富

著書では「世界の下位半分と同じだけの富を、観光バス1台に乗れる62人の富裕層が持っている」という比喩を用いた。現在の状況についてシャイデル氏は「もっと人数の少ないミニバンでしょうね。イーロン・マスク氏やジェフ・ベゾス氏といった『テック界の領袖』を全員乗せなければならない。驚くべきペースで富の集中が加速している」と警鐘を鳴らす。

都市レベルの再分配と住宅格差

パリやニューヨークなどの都市が社会住宅の整備など再分配に取り組んでいることについて、シャイデル氏は「原理的には正しい方向だ。住宅が格差の主要な源泉になっているからだ。戦後しばらくは個人の持ち家が歴史上初めて大規模に広がり、住宅に蓄積される富が広く分配されたが、近年は完全に逆方向だ。住宅価格が他のあらゆるものを上回るペースで上昇し、親の資産を子が相続する世代間移転が起きている」と分析する。

再分配の限界と課題

しかし、シャイデル氏は都市レベルの再分配には限界があると指摘する。「都市単位の取り組みだけでは、グローバルな資本の流れや税制競争を前に効果は限定的だ。国家レベル、さらには国際的な協調が不可欠だが、現実には難しい。歴史が示すように、平和的な再分配は容易ではない」と述べ、暴力的な衝撃に頼らない平等化の難しさを強調した。

インタビューはサバティカルで滞在中の英ケンブリッジ大学で行われ、金成隆一氏が撮影した。シャイデル氏の研究は、現代の格差問題に歴史的な視点から警鐘を鳴らし続けている。

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