閉経が脳に与える影響:2つの研究が示す構造と機能の変化
女性の閉経は、単なる生殖機能の終わりではなく、脳の構造や働きに大きな影響を及ぼすことが、最新の研究で明らかになった。2021年に科学誌『Scientific Reports』に発表された研究では、161人の女性を対象に、閉経の時期に脳のネットワークやエネルギー代謝がどのように変化するかが分析された。
分析の結果、閉経後に記憶や思考に関わる脳領域(海馬や灰白質)の体積が減少し、主要なエネルギー源であるブドウ糖の代謝が低下することが確認された。しかし、閉経を経験すると脳は新たな環境に適応し、ブドウ糖の不足を補うように、別の経路でエネルギー(ATP)を作り出すようになっていた。一部の脳領域(前頭部)では体積の回復も見られ、この適応メカニズムがうまく働くことで記憶力などの認知機能は維持されることが示された。
閉経段階別の脳の変化:PRE・PERI・POSTで異なる影響
閉経の段階(PRE=閉経前、PERI=更年期、POST=閉経後)ごとに、脳の海馬(a・b)と灰白質(c)の容積が変化する脳領域が示された。更年期から閉経後にかけての脳の各指標(容積・代謝・血流・ATP産生・アミロイドβ蓄積)の推移を閉経前を基準にまとめたところ、閉経後に脳のエネルギー代謝が低下する一方で、脳は代替経路を活用して適応していることが明らかになった。
一方、アルツハイマー病のリスク遺伝子(APOE-4)を持つ女性では、この時期から原因物質であるアミロイドβの蓄積が同年齢の男性より進むなど、将来の認知症リスクが動き出す時期であることも指摘されている。
UKバイオバンクの大規模データ:約12万5000人の女性を分析
2026年に『Psychological Medicine』誌で発表された、英国の大規模情報収集機関「UKバイオバンク」のデータを用いた研究では、約12万5000人という女性(閉経前4万9772人、HRT未利用の閉経後5万2252人、HRT利用の閉経後2万2756人)を対象とした調査結果も明らかになった。HRTとは、更年期の症状を緩和するホルモン補充療法を指す。
調査の結果、閉経後の女性は閉経前に比べ、感情や記憶を司る内側側頭葉(海馬や扁桃体)や前帯状皮質の灰白質容積が減少していることが判明した。さらに、不安やうつ傾向、不眠や疲労感といったメンタルヘルスや睡眠の悪化も見られた。ただし、記憶力などの認知機能自体に大きな低下は見られなかった。
HRTの効果:症状緩和と脳容積への影響
ちなみに、HRTを利用している女性の方が、利用していない閉経後の女性よりも海馬などの脳容積が小さく、不安やうつのレベルも高い傾向が示された。しかし研究チームは、これはHRTが症状を悪化させたというより、もともと不安やうつを抱える女性ほどHRTを処方されやすいためと解釈している。



