AIブームの裏でマレーシア先住民ダヤック族が犠牲に、水力発電ダム強制移住の実態
AIブームの裏でマレーシア先住民が犠牲に、水力ダム強制移住

世界的なAIブームによりデータセンターの建設ラッシュが続く中、その膨大な電力を賄うための「クリーンエネルギー」の争奪戦が激化している。しかし、その裏でマレーシア・サラワク州の先住民ダヤック族が、水力発電ダム建設に伴う強制移住により、伝統的な生活基盤やアイデンティティを失っている実態が明らかになった。

強制移住の実態:補償約束も不履行

ダヤック族は、自給自足の生活に慣れ親しみ、ジャングルを「我らのスーパーマーケット」と呼ぶほど自然と密接に関わってきた。しかし、ダム建設のため強制的に移住させられ、政府から約束された農地は十分に提供されず、仮設住宅の家賃や水道代、電気代などの支払いを課せられた。山や川へのアクセスが失われることは、伝統文化やアイデンティティの喪失を意味し、貨幣経済の中で最底辺の労働力として生きることを強いられている。

NGO「Save Rivers」代表のピーター・カラン氏(ケニャ族出身)は、「政府がこれまでどうやって進めてきたかを見れば、この電力のどこが『クリーン』なのか、まったくわかりません」と語る。カラン氏は2011年頃から水力発電ダム建設への反対運動を先導し、「バラム・ダム」建設中止に中心的な役割を果たした。しかし、「バタン・アイ」から40年が経った今でも、州内における水力ダム建設に伴う「ダヤック再定住」の実態は変わっていないと指摘する。

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「例えば最新のムルム・ダムでは、20エーカーが補償されると書面では約束されていました。でも、この補償が果たされる様子はありません。FPIC(自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意)やデューデリジェンスなど、社会的・環境的な配慮をしている風を書類上では装っていますが、これはあくまでプロジェクトを遂行するためにすぎません」とカラン氏は述べた。

バクン・ダム:最大規模の移住と不十分な補償

マレーシア・サラワク大学准教授のジュナ・リャウ博士の家族は、東南アジア最大級の発電規模(2400MW)を誇る「バクン・ダム」建設で1990年代に移住を強いられた。約1万人の先住民が移住し、マレーシアにおけるダム建設に伴うコミュニティ移転としては最大規模だった。

リャウ氏は「ダムがなければ、私たちは土地という意味で最も豊かなコミュニティのひとつだったはずです。もともとの家には(家族が切り拓いてきた)15区画の農地があったのに、補償は最終的に、はるかに少ない3エーカー。3エーカーで、何が作れますか? でも、それすら実際には受け取っていません」と語る。先祖から受け継いだ広大な山、川、森と引き換えに政府が補償として提供した農地は、書面上の25エーカーから15エーカー、最終的に3エーカーにまで削減された。仮設住宅の材木も高温多湿なサラワクの気候に耐えられず、数年で腐ってしまう代物だった。リャウ博士の姉は新居の建設に約700万円を費やし、自身も約240万円かけたが、工事はまだ4割しか終わっていないという。

リャウ氏は「農耕や狩猟など男性の活動だけでなく、女性たちも森に入り、薬草、山菜、食料を採って暮らし、その知識は世代を超えて受け継がれてきました。でも移住させられると、3エーカーの土地ではそれができない。毎日の習慣が根こそぎ奪われたんです。強制的に」と述べている。

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「クリーン」エネルギーの矛盾

NGO「Save Rivers」事務局長のセリーヌ・リム氏は、「ダムの近隣コミュニティが今も停電に悩まされている状況を、どう見たらいいでしょうか。このプロジェクトが誰のためにあるのかは明確です」と指摘する。筆者は現地を訪れ、州都クチンから車で約4時間の「バタン・アイ」再定住地で暮らす人々を取材した。

この再定住プロジェクトは、先住民の生活基盤を奪い、彼らをまったく馴染みのない資本主義システムに放り込む構図となっており、慢性的な貧困や都市部への流出、不法占拠、身売りなどの社会的問題だけでなく、先住民族のアイデンティティや文化・伝統そのものの危機をもたらしている。

本記事は、「アジア太平洋女性・法・開発フォーラム(APWLD)」が実施する「デジタル化と女性のデジタル権利・正義」をテーマとしたメディア・フェローシップを通じて製作された。