新局面のオルタナティブ投資戦略:個人投資家が知るべき分散の新常識
新局面のオルタナティブ投資戦略:個人投資家の新常識

伝統的な分散投資の限界

新NISAの普及で個人投資家の意識が高まる一方、中東情勢の緊迫化など世界経済の不確実性が増している。これまで「攻め」の株式と「守り」の債券を組み合わせる分散投資が基本とされてきたが、株安と債券安が同時に進行する局面が増え、その有効性に疑問が生じている。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の浜田直之氏は、「リーマンショック以降、市場がストレスにさらされた局面では株式と債券が同時に売られるケースが増えた。インフレや金利上昇といった構造要因が重なり、従来の分散効果の前提を再点検する必要がある」と指摘する。

地域集中リスクとオルタナティブの役割

ヌビーン・ジャパンの鈴木康之氏は、地域の集中リスクを見落としがちだと警告する。「全世界株式に分散しているつもりでも、実際には米国株の比率が高く、特定の国や産業の影響を受けやすい。金融政策や為替、地政学リスクは地域ごとに異なるため、長期投資では地域分散が不可欠だ」と述べる。

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こうした環境下で注目されるのがオルタナティブ投資だ。鈴木氏は「機関投資家は株式や債券に加え、プライベート・エクイティ、プライベート・デット、インフラ、不動産などを組み込む。これらは上場市場の価格変動とは異なるドライバーを持つ収益源をポートフォリオに加える」と説明する。

機関投資家の実践:TIAAの事例

ヌビーンは米国教職員退職年金・保険組合(TIAA)の資産運用を担う。TIAAグループの運用資産規模は1.4兆ドル(約223兆円)に上る。鈴木氏によると、TIAA一般勘定の資産配分は債券性資産が84%(うちパブリック債券47%、プライベート債券性資産37%)、オルタナティブ(プライベート・エクイティ、インフラ、不動産)が16%で、プライベート資産全体では53%を占める。この比率は2017年末の40%から上昇しており、公開市場だけでは取り込みにくい領域へ資金を振り向ける動きが強まっている。

浜田氏は「年金資金は短期の値動きに左右されず、リスクや流動性を総合的に検討した結果、この配分に至っている」と評価する。

プライベート資産の特徴と選別の重要性

浜田氏は、公開市場では情報が瞬時に価格に織り込まれ、差をつけるのが難しくなっていると指摘する。「一方、プライベート資産は情報開示や評価の前提が画一的ではなく、高度な専門性が必要。運用会社を選ぶ際には、人材やガバナンス、モニタリング体制、長期の運用実績を丁寧に確認すべきだ」と述べる。

鈴木氏は「玉石混交の世界であり、優れた鑑定士がいなければ成立しない」と同意する。

多様な投資機会と地域特性

オルタナティブには金や商品だけでなく、エネルギー、インフラ、森林、農地などの実物資産も含まれる。鈴木氏は「実体経済に根差した多様な収益源を組み込めるのが特徴」と語る。米国では年金資金がシリコンバレーのスタートアップを支援し、IT産業を創出。欧州では銀行規制強化を背景に、プライベート・デットが企業への資金供給を補う構造が広がっている。ヌビーン・グループのアークモントは欧州各国に拠点を持ち、中堅企業向け直接貸し付けに取り組む。

リスクオリエンテッドの考え方

浜田氏は「目標利回りから逆算するのではなく、まず許容できるリスクを定め、その範囲でポートフォリオを組む『リスクオリエンテッド』が基本スタンス」と強調する。鈴木氏も「どこまでの値動きなら受け入れられるかを考えるべき」と応じる。

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個人投資家への示唆として、浜田氏は「保有資産の種類を増やすことより、値動きや収益の源泉が異なるものをどう組み合わせるかが重要。機関投資家の発想を知ることは参考になる」と述べる。

アクティブ運用の価値と中小型株

インデックス運用が強い市場環境だが、アクティブ運用の価値が発揮されやすい領域として、プライベートセクターや新興国、小型株が挙げられる。鈴木氏は「米国の中小型株はITバブル崩壊後、カバーするアナリストが減少し、企業の真の価値と株価にゆがみが生じている。当社は親会社資金を30年運用し、ベンチマークを年率7%上回っている」と実績を示す。

浜田氏は「個人で中小型株に取り組むのはハードルが高いが、運用会社の調査体制の厚みに信頼を置く」と語る。

地政学リスクとインカムの重要性

地政学リスクについて浜田氏は「原油高が長期化して企業収益を傷めるか、金融システムに影響するかを見極めることが重要。リスク分析はバックミラーを見るようなものだが、リターンはフロントガラスの向こう側を見通す必要がある」と比喩を用いる。

鈴木氏は「インカムの視点が重要。定期的な収益があれば相場変動に振り回されにくい。人生100年時代、資産を取り崩すだけでなく収益を得ながら活用する発想が必要」と述べる。浜田氏も「魅力的なインカムの追求を投資コンセプトの一つに掲げている」と応じる。

両氏は「特定の市場やテーマに依存せず、収益の源泉を広げ、上場・非上場市場の分散、地域分散、成長とインカムを意識することで、変化の大きい時代でも安定した資産形成に近づける」と結論づける。