2025年12月、岐阜市内の岐阜薬科大学キャンパスで開催された「岐阜大学&岐阜薬科大学ラボツアー」に参加した。このイベントは岐阜市が主催し、2024年から継続的に実施されている。大学の産学連携の取り組みを外部に紹介し、研究室見学を通じて交流の場を提供することを目的としている。本稿では、このラボツアーでの知見をもとに、地方大学発スタートアップの現状と産学連携における課題を深掘りする。
公立大学法人化がスタートアップ設立を加速
岐阜薬科大学は岐阜市立の公立大学で、2025年に公立大学法人へ移行した。法人化以前は教職員が公務員扱いであり、副業が制限されていたが、移行に伴い兼業規定が緩和された。その結果、2025年度だけで4件の大学発スタートアップが設立され、産学連携が急速に進展している。今回のツアーでは、すでに事業化が動き出している企業や、将来の起業を見据えた研究シーズが紹介され、非常に興味深い内容だった。
紹介された主なスタートアップと研究シーズ
- ECEテクノ:産学連携を専門とするCEO羽田野泰彦氏と、COO七條通孝教授らが経営陣に参画。独自のマイクロ波技術を活用し、プラスチックや牡蠣殻を分解・再利用するカーボンニュートラル技術(サーキュラーエコノミー)を研究・開発する。
- パウダーインテリジェンス:田原耕平教授の技術シーズから誕生。AIを用いた粉体原料の物性予測システムの実用化を目指す。
- ジェノフィブリクス:同じく田原耕平教授の研究から派生。ナノファイバー技術を用いた湿布や人工器官用薄膜の開発を進める。両社でデータサイエンスと素材領域をカバーする。
- 加齢黄斑変性治療薬シーズ:中村信介准教授の研究室が開発。眼球の網膜が硬化・線維化し視力が著しく低下する難治性眼科疾患の治療薬を目指す。国の大学発新産業創出基金事業(GAPファンドプログラム)にも採択され、スタートアップ設立による社会実装を視野に入れている。
大学発スタートアップが直面する「3つの壁」
これらの事例から、地方大学発スタートアップの成長を阻む共通要因として、以下の3点が浮かび上がる。
1. 資金調達の難しさ
大学発スタートアップは、シード段階での資金調達に苦労することが多い。特に地方大学の場合、地元の投資家やベンチャーキャピタルが限られており、東京などの大都市圏に比べて資金調達の機会が少ない。岐阜薬科大学のスタートアップも、GAPファンドのような公的資金に依存する傾向が強い。
2. 事業化に向けた人材不足
研究者が経営に参画するケースが多いが、ビジネス経験やマネジメントスキルを持つ人材が不足している。ECEテクノのように産学連携専門のCEOを外部から招く例もあるが、多くのスタートアップでは研究者自身が経営を担わざるを得ず、事業成長のボトルネックとなっている。
3. 事業会社との連携不足
研究シーズを社会実装するには、事業会社との協業が不可欠だが、地方大学では大手企業とのネットワークが限られている。岐阜薬科大学のように、ラボツアーを通じて外部との接点を増やす取り組みは有効だが、継続的なパートナーシップ構築には至っていないケースが多い。
事業会社とのタッグが鍵を握る
これらの壁を突破するためには、事業会社との連携が極めて重要だ。特に、素材や化学分野では、大手化学メーカーや製薬企業との共同研究が事業化の近道となる。岐阜薬科大学のスタートアップも、既存の事業会社と組むことで、研究開発の加速や販路開拓が期待できる。
東海エリアでは、名古屋大学や豊橋技術科学大学など、他の大学でも産学連携の動きが活発化している。地域全体でスタートアップエコシステムを構築するためには、大学間の連携や、自治体による支援策の拡充が求められる。
次回の後編では、岐阜大学との連携事例や、他の地域の成功事例を紹介しながら、地方大学発スタートアップの成長戦略をさらに掘り下げる。



