オープンイノベーション成功の鍵は「鵜飼い」投資戦略 SOMPO×AT PARTNERS対談
オープンイノベーション成功の鍵は「鵜飼い」投資戦略

オープンイノベーションの成功の鍵とは。多数のスタートアップと新規事業を創出してきたSOMPOホールディングスの楢﨑浩一氏と、FoF方式で海外VCに分散投資を行うAT PARTNERSの土佐林淳氏が、日本企業の新規事業開発における課題とその解決策を語り合った。

日本企業の課題は「現状維持バイアス」の強さ

土佐林氏は、日本では長年オープンイノベーションの必要性が叫ばれてきたが、欧米などに比べて成功事例が少ない理由を尋ねた。楢﨑氏は、長くシリコンバレーでスタートアップの事業開発や経営に携わり、2016年にSOMPOホールディングスのグループCDO執行役員に就任、現在は事業開発最高責任者を務めている。その中で感じた日本企業の課題は「現状維持バイアス」の強さだと指摘する。

「多くの経営トップは現状に対する危機感を持っていますが、全社的には『今やっていることを否定したくない、既存事業をディスラプト(破壊)するのは怖い』という空気がまん延しています。本音ではイノベーションなんて起きてほしくないと思っている。そのため新規事業開発に取り組んでも、少し風向きが悪くなるとすぐに中断してしまうのです。しかし、新規事業は1、2年くらいで結果が出るものではありません」と楢﨑氏は語る。

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そんな中でも、楢﨑氏は多くの成果を上げている。これまでに複数の新規事業を立ち上げ、軌道に乗せてきた。2019年には、米国のパランティア・テクノロジーズと合弁会社を設立。パランティアは今でこそAIやビッグデータ解析で有名だが、当時は「そんな会社と組んで何をするんだ?」という反応だった。しかし、トップが後押ししてくれたことで今がある。

投資は目的ではなく手段。「戦略」が命運を分ける

土佐林氏は、SOMPOが成功しているのは、経営層のコミットメントに加え、投資を“目的”ではなく“手段”に位置づけていることも大きいと指摘する。「多くの日本企業はここが逆転しており『出資すること』がゴールになりがちです。しかし、『どんな新規事業を生みたいのか』という戦略がおろそかなままでは、本質的なイノベーションは起こりません。その点、楢﨑さんは『何を実現したいか』を明確に描いた上で協業相手を探し、必要があれば出資するスタンスなので、無駄な投資が少ないですね」と土佐林氏は評価する。

楢﨑氏は、スタートアップが協業パートナーに求めているのは、自分たちの製品や技術を買って売り上げをもたらしてくれることと、事業成長を加速させる戦略投資の二つであり、決して出資“だけ”ではないと強調する。土佐林氏も、日本企業は出資と協業をセットで考えることが多いが、この二つは分けて考えるべきだと指摘する。

「有望なスタートアップは既にApple、Google、Amazonといった現在の世界経済をけん引する企業に創業初期から投資してきた実績を有するトップティアVCから十分な資金を得ており、投資家を『選ぶ』立場にあります。競争が激しく簡単に出資できないだけでなく、出資したからといって自動的に協業先と見なしてくれるわけでもありません。こうした厳しい状況が、日本ではほとんど知られていないと思います」と土佐林氏は警鐘を鳴らす。

魚でも鵜でもなく「鵜飼い」に投資する

楢﨑氏は、スタートアップを「魚」に例える。日本の大企業が海外のどの魚が将来世界を変える力を持っているかを見極めるのは至難の業で、自分で直接魚を捕るのは大きなリスクがある。そこで、多数の鵜を通じて魚の情報が集まってくる「鵜飼い」、すなわち複数のVCに投資するFoF(ファンド・オブ・ファンズ)に注目した。

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「魚(スタートアップ)や鵜(VC)よりも、優れた鵜飼い(FoF)に投資する方が、幅広く精度の高い情報が得られ、オープンイノベーションにつながりやすい。私たちがAT PARTNERSに出資したのは、財務的なリターン以上に、戦略的リターンがずっと大きいからです」と楢﨑氏は説明する。

土佐林氏によれば、オープンイノベーションを推進する日本の事業会社向けにこのFoFモデルを提供したのは、国内でAT PARTNERSが初めてだという。これまで20のトップティアVCおよび37のファンドへ投資を行い、総ファンドサイズは500億円超に達する。本来、海外のトップティアVCに投資するのは簡単ではないが、私や共同創業者の秋元信行はベンチャー投資の経験が長く、彼らとの強固なネットワークのおかげで実現がかないました。これらの大手VCに分散投資することで、財務リターンを担保しつつ、彼らが持つ世界中のスタートアップ情報を網羅的に得ることができる。

楢﨑氏が特に重宝しているのが、AT PARTNERSが独自に開発したスタートアップのデータベース「ATDB」だ。「こんな事業をやりたい」と思ったときに、条件に合うスタートアップが調べられ、強みや弱み、競合、特許、資金調達状況などの情報が得られる。土佐林氏によれば、投資するVCが持つ累計6000社のポートフォリオにとどまらず、世界中のスタートアップ400万社以上の中から戦略面でベストなスタートアップを探し出せる仕組みだという。楢﨑氏はATDBを「使い倒して」いると語る。

今後の展望と変革

楢﨑氏は、日本企業は良くも悪くも横並び意識が強いので、この動きは徐々に広がると予想する。「例えば、私がSOMPOに入った当時は、保険業界でCDOの肩書を持つ人はいませんでしたが、今では珍しくありません。『オープンイノベーションはこうあるべき』と念仏を唱えるだけでは意味がなく、行動するしかない。ただ、いきなりどこかのスタートアップに投資するのはリスクが高過ぎます。AT PARTNERSのような優れた『鵜飼い』とパートナーを組むことは、高い視座と解像度で世界を見てオープンイノベーションを実現するための、強い武器になるはずです」と述べる。

土佐林氏は、AT PARTNERSを立ち上げたのは、停滞する日本のオープンイノベーションの現状に一石を投じたいという思いがあったからだと明かす。「SOMPOのような成功事例を皮切りに、さらなる変革を起こしていきます」と決意を語った。