奈良シニア大学を運営する矢澤実穂さんは、設立から10年、無給で働き続けながら累積赤字約1700万円を抱えていた。しかし、学生や講師からの寄付により、ついに全額を完済し、黒字化を達成した。シニア世代の「居場所」を守るための奮闘の軌跡を追う。
窮状を知った1期生たちの決意
矢澤さんが運営する奈良シニア大学は、高齢者が学び、交流できる場として2016年に開校。しかし、当初から資金難に悩まされ、累積赤字は1700万円に膨れ上がっていた。窮状を知った1期生たちは、静かに立ち上がった。「それなら、僕たちでこの場所を盛り上げよう」「矢澤さん、知り合いにもここを紹介しとくからね」。大企業で培った人脈を活かし、自ら講師を連れてくるだけでなく、奈良市内の帝塚山大学の元学長をシニア大学の学長として迎え入れることに尽力した。運営側が一方的に準備するのではなく、学生たちが自らの手で「自分たちの大学」を作り上げていった。
口コミで成長、累積赤字は800万円に
口コミで入学者は増え続け、運営開始から10年で4校、約350人の学生を抱える規模に。毎年黒字を出せるようになったものの、設立初期の累積赤字は約800万円残っていた。矢澤さんはシニア大学からは一切報酬を受け取らず、並行して経営するパーソナルトレーニングジムや福祉事業の会社から生活費を捻出していた。
コロナ禍の追い打ちと学生の寄付
コロナ禍では運営ができず資金源が完全にストップ。学生やスタッフが増え規模が大きくなる一方で、経営は綱渡りの状態が続いていた。そこへ追い打ちをかける大打撃。すると、在籍する100名以上の学生が「学校を存続させてくれ」と、コロナ禍で国から支給された10万円の特別定額給付金を次々と寄付してくれた。
講師の突然の死と保険金の寄付
昨年夏、副校長のような立場で矢澤さんを支え、選択授業も担当していた講師が突然の事故で亡くなった。葬式の数カ月後、講師の妻は保険金の一部を矢澤さんに手渡し、「このお金を使って。夫もそれを望んでいるはず」と告げた。「これからは自分のお給料を取りなさい。古い事務所でエアコンもパソコンも買えないって言ってないで、借金もさっさと返しちゃいなさい」と言われたという。矢澤さんは「感謝の思いで、頭が上がりませんでした」と振り返る。この寄付により、長年の赤字を全額完済。累積赤字1700万円から黒字化への道が開けた。「学生と先生方に生かされ、助けられた10年間でした」と語った。
シニア学生の居場所としての意義
奈良シニア大学は、単なる学習の場ではなく、シニア世代が社会とのつながりを持ち続ける「居場所」としての役割を果たしている。矢澤さんは「子どもにしがみつかれるシニア学生」という言葉で、家庭で孤立しがちな高齢者が大学で生き生きと過ごす姿を表現。今後も安定した運営を目指し、シニアの学びと交流の場を提供し続ける。



