日本経済の構造変化を捉え「プラスアルファ」の投資戦略へ
日本経済の構造変化を捉え投資戦略へ

長きにわたるデフレ経済が終焉を迎え、日本経済は「インフレ」と「金利のある世界」への転換期にある。国が「資産運用立国」を掲げ、新NISA制度の拡充など制度面での整備が進む中、家計の金融資産を貯蓄から投資へと振り向ける動きが加速している。資産の価値を向上させるための合理的なアプローチとは何か。

マクロ経済の現在地:コストプッシュからディマンドプルへ

内閣府が2025年7月に公表した「令和7年度 年次経済財政報告」や各種物価指標の推移が示す通り、現在の日本経済は、原材料価格の高騰などを起点としたコストプッシュ型のインフレから、企業業績の改善と持続的な賃上げを伴うディマンドプル型のインフレへの移行期にある。日本銀行の金融政策正常化によって、長らく遠のいていた「金利と物価が連動して動く世界」を前提とした経済活動へのシフトを迫られている。

家計金融資産の半分が現預金:見えないリスク

日本銀行が26年3月に公表した「資金循環統計」によれば、日本の家計金融資産(約2351兆円)のおよそ半分は、いまだに現金・預金として滞留している。デフレ下においては「現金を持つこと」が相対的に合理的な防衛策であったが、インフレ環境下への構造変化が起きた現在、過度な現預金の保有は「見えないリターンへの機会損失」であるにとどまらず、購買力の低下という直接的なリスクにも直結する。インフレ率を上回るリターンが期待できるアセット配分への見直しは、資産防衛の観点から非常に重要な意味を持つ。

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「稼ぐ力」を高める日本企業への投資

インフレ環境下において実質価値を保全し、さらなる成長を享受するための有効な選択肢として挙げられるのが、構造的な変革期にある日本企業への投資である。東京証券取引所が上場企業に対して「資本コストや株価を意識した経営の実現」を強く要請したこともあり、日本企業のコーポレートガバナンスは大きな変化を遂げている。PBR(株価純資産倍率)1倍割れの是正に向け、多くの企業がROE(自己資本利益率)の向上を経営目標に掲げ、過去最高水準となる自社株買いや増配といった株主還元策を推し進めている。

価格転嫁力の向上と「稼ぐ力」の回復

さらに注目したいのが、インフレ下における日本企業の「価格転嫁力」の向上だ。デフレ期にはコスト削減と内部留保の蓄積によって縮小均衡に陥っていた企業が多かった。しかし現在は、商品やサービスの付加価値を高め、それを適切な価格設定(値上げ)に反映させることで、労働者への賃上げと利益率の改善を同時に達成する企業が増加している。こうした動きの広がりは、本質的な「稼ぐ力」を取り戻すことにつながる。資本効率の改善と収益構造の転換は海外の機関投資家からも評価されており、強固なビジネスモデルを有する個別企業を見極め、選別的に投資を行うことは、「資産運用立国」の主眼である「成長と分配の好循環」を体現する合理的な投資行動といえる。

堅調なインバウンド需要と需給ギャップ

ペーパーアセット(金融資産)の再構築と並行して、ポートフォリオの分散効果とインフレ耐性を高めるもう一つの軸となるのが、ハードアセット(実物資産)の組み入れである。一般的に不動産などの実物資産は、物価上昇に連動して資産価値や賃料収入が上昇する傾向があり、伝統的なインフレヘッジ資産として位置付けられている。

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実物資産投資の文脈で成長シナリオを描きやすいのは「観光・インバウンド産業」を起点とした不動産市場だろう。政府が23年3月に閣議決定した「観光立国推進基本計画」において、訪日外国人旅行消費額の拡大や、地方部での延べ宿泊者数の増加が主要なKPIとして設定されている。円安という外的要因もさることながら、日本の豊かな自然、文化、治安の良さといった本質的な魅力が評価され、インバウンド需要は長期的な成長トレンドにある。

一方で国土交通省・観光庁が25年5月に公表した「観光白書(令和7年版)」の統計データと現状を照らし合わせると、需給ギャップが生じていることが分かる。宿泊需要は旺盛であるものの、受け皿となるべき「高付加価値な宿泊施設」は不足している。とりわけ、豊かな自然や独自の文化を擁するリゾート地においては、インバウンドの富裕層や国内のファミリー層を中心に、「非日常」や「プライベート空間」を求める声が上がっている。ただ、そうしたニーズを的確に満たす施設は、全国的に見ても足りていないのが実情だ。インバウンドの活況による客室単価の上昇は、施設の実物資産としての価値を押し上げる。成長産業のインフラ不足を補うこうした投資は、地方創生という社会的課題の解決に寄与するだけでなく、マクロ環境の変化に強いポートフォリオを構築する上で重要なピースとなる。

ハイブリッドポートフォリオ戦略の重要性

金利とインフレが共存する世界では状況を静観し、現預金を維持することはリスク回避とはいえない。ベースとなる長期分散投資の上に、資本効率の改善と価格転嫁によって成長する日本企業への投資と、国策としての観光立国を支える実物資産への投資を組み合わせる、そうした視点が大切だ。金融資産による成長性の確保と、実物資産によるインフレ防衛と安定収益の獲得。この攻めと守りを両立させるハイブリッドなポートフォリオ戦略で、「プラスアルファ」の実りを手にしたい。