令和8年熊本地震、半導体工場は再開へ動き出すも自動車工場は停止長期化 サプライチェーン全体に影響が懸念
熊本地震:半導体は再開進むも自動車は停止長期化、サプライチェーンに影響

28日に発生した熊本地震で、半導体工場は生産再開に向けて動き出した一方、自動車工場では稼働停止が長引いている。部品を含めたサプライチェーン(供給網)への影響が懸念され、メーカー各社は復旧を急いでいる。

半導体、生産再開の動き相次ぐ

東京エレクトロンの熊本県合志市と大津町の両事業所は、建屋や設備に大きな被害はなく、8月3日から生産や物流で本格的な稼働再開を予定している。三菱電機も30日から熊本県内にある半導体デバイス事業の生産拠点で、最終工程に当たる試験工程の一部を再開した。建物の損害は非常に軽微で、設備にも大きな損壊は確認されていないが、安全性や設備状況の確認に時間を要するため、本格的な生産再開時期は今後見極める。

ルネサスエレクトロニクスの錦工場(熊本県錦町)は一部生産を29日に再開し、川尻工場(熊本市)も8月5日から順次生産を再開する予定だ。ソニーグループの熊本県菊陽町の拠点も8月4日から順次操業を再開する。8月中旬には地震前の稼働水準に復旧する見込みだ。

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自動車工場は停止が長期化

トヨタ自動車は31日、福岡県の3工場での稼働停止を8月5日まで延長することを明らかにした。安全や物流、仕入先の状況を考慮したという。田原工場(愛知県田原市)でも3日から7日まで稼働を止めるといい、影響は拡大している。

デンソーの前田聖司経営管理本部長は31日の決算会見で、熊本地震による自社の生産への直接的な影響はなく、人的被害もなかったと明かした。九州にある取引先30社のうち1社に影響があったほか、16社については確認中だと述べた。トヨタグループやサプライヤーの工場復旧に向け、人的支援などを行っていくという。

アイシンは、地震の影響で停止している子会社工場について、一部製品はラインを動かして点検を始めており、安全や品質に問題がなければ順次生産を再開していく方針を示した。海外拠点を含め互換品の活用や他の拠点での代替生産なども進めていく。

日産自動車は福岡県にある日産自動車九州と日産車体九州の工場での一部生産の停止を8月5日まで延長した。三菱自動車も岡山県の工場で一部車種の生産を停止している。ホンダは熊本製作所(熊本県大津町)の稼働停止を31日まで継続する。

過去の教訓を生かす

熊本県では半導体産業の振興を目指す政府の支援もあり、台湾積体電路製造(TSMC)も進出するなど、半導体産業の集積地となっている。同県では2016年4月にも最大震度7の地震が起き、多くの工場に被害が広がった。復旧に向けた動きが早い企業では、被災の経験が生かされているようだ。

東京エレクトロンの川本弘常務執行役員は30日の決算会見で、前回の教訓から耐震対策を進めたほか、25年に竣工した新しい開発棟は免震構造だと説明。「前回と比べてかなり早期に立ち上げることができる見込みだ」と述べた。三菱電機も16年の地震後、免震構造の採用などの地震対策を進めてきた。藤本健一郎最高財務責任者(CFO)は「10年間対策を打ってきた結果、被害も前回より少ない」と説明。前回の熊本地震ではパワー半導体事業で約80億円の被害が発生したが、今回はその数分の一程度にとどまるとの見方を示した。

ルネサスも11年の東日本大震災で茨城県の那珂工場が被災したことを受け、16年の時点から熊本の事業所でも耐震を強化していた。石英などの部材も多めに備蓄しており、広報担当者は「こうした対策が早期の生産復帰につなげるための秘訣だ」と話した。アイシンの近藤大介最高財務責任者(CFO)も同日の決算説明会で、10年前の地震に比べ、設備の損傷は大きくなかったと述べた。

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今後の焦点はTSMCの動向だ。TSMCでは建物の安全は確認されたが、設備の点検と復旧作業中で一定の時間が必要だとしている。

経済産業相「影響最小限に」

赤沢亮正経済産業相は31日の閣議後会見で、半導体や自動車関連の工場で設備などに被害が発生したり、安全点検のために操業停止しているところがたくさんあると指摘。「現時点で予断をもって判断することは困難だが、日本経済へ影響が最小限となるように全力で対応したい」と述べた。

地震の可能性と立地の優位性

気象庁がまとめた地震・火山月報によれば、16年に熊本県内で観測された地震は3812回にのぼったが、その後は多い年でも265回と、他の都道府県と比べて突出して多いわけではない。九州には豊富な地下水があり、比較的地価も安く、半導体の工場が集積している。伊藤忠総研の小林泰斗副主任研究員は、地震が起きたからといって、工場の立地における「地理的な優位性に関しては揺らがない」と指摘する。

東京エレクトロンの川本氏も、熊本には半導体産業集積の強みがあるとし、「熊本だけではなく日本はどこでも地震が起こる可能性があり、メリット・デメリットを見極めていくことになると思う」と述べた。ブルームバーグ・インテリジェンスで自動車を担当する吉田達生シニアアナリストは、各社とも供給網の可視化、代替調達、耐震改修などのBCP対策を進めており、「早く影響範囲を把握し、復旧や代替生産に移れる可能性がある」と指摘。一方で「代替が効かないなど部品調達に深刻な問題があると、自社工場の復旧と地震の鎮静化が進んでも、操業正常化は遠くなる」と続けた。