テーマパークコンサルタントの清水群氏は、著書『1割の顧客で9割売り上げる「沼るファン」のつくり方』(かんき出版)の中で、ディズニーランドやユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)では「いらっしゃいませ」という挨拶が禁句であると明かしている。これは、初対面の相手との会話のハードルを下げるための工夫の一環だという。
ホスピタリティーはサービスの上位概念
清水氏は、サービスとホスピタリティーの違いを明確に定義している。サービスとは「すべての人に等しく行うこと」であり、ホスピタリティーとは「一人ひとりに対して行うこと」だと説明する。例えば飲食店では、サービスは注文通りの料理を提供すること、ホスピタリティーはゲストの好みに応じて苦手な食材を抜いたり、アレルギーに配慮したりすることに相当する。
さらに、足に障がいのあるゲストが来店した場合、段差を避けた席に案内したり、トイレやドリンクバーへ行きやすい場所を考慮するのもホスピタリティーだ。清水氏は「ホスピタリティーはサービスの上位概念であり、万人向けのサービスの土台があって初めて成り立つ」と強調する。一流のサービスで強固な土台を築き、ホスピタリティー(気づきと行動)でゲストをさらに「沼らせる」構造が重要だという。
「いらっしゃいませ」から始める弊害
清水氏によれば、ディズニーやUSJでは「いらっしゃいませ」という定型の挨拶は使われない。その理由は、この言葉が会話の終わりを暗示し、その後のコミュニケーションを妨げるからだ。代わりに、キャストは「こんにちは!」「今日はどんな1日にしたいですか?」など、ゲストとの自然な会話のきっかけを作る声かけを心がけている。
このアプローチにより、初対面のゲストでも気軽に話しかけやすい雰囲気が生まれる。清水氏は「一瞬の挨拶で会話のハードルを下げることが、ゲスト体験の質を大きく変える」と述べている。
わずか2%の差異に気づけるか
清水氏は、ゲスト一人ひとりに合わせたホスピタリティーを提供するには、わずか2%ほどの細かい差異に気づく観察力が必要だと指摘する。例えば、ゲストの表情や動作の微妙な変化を見逃さず、それに応じた対応をすることで、「自分だけ」が特別に扱われていると感じさせる体験価値を創出できる。
この「自分だけ」という感覚こそが、ゲストを「沼るファン」へと変える鍵だ。沼るファンは、自ら進んでテーマパークの魅力を周囲に伝える「伝道師」となる。清水氏は「わずか2%の違いが、リピート率や口コミの拡散に大きな影響を与える」と述べている。
ゲストは「沼る」と伝道師に進化する
清水氏の提唱する「沼るファン」とは、単なるリピーターではなく、自ら情報を発信し、新たなファンを呼び込む存在だ。彼らは、テーマパークでの特別な体験をSNSや口コミで共有し、結果として売上の9割を生み出す1割の顧客層となる。
この戦略の根底にあるのは、サービスとホスピタリティーの明確な区別と、それを実践するための細やかな気配りである。清水氏は「ホスピタリティーは、気づきと行動の連続であり、それがゲストの心を掴む」と結論づけている。



