採用難なのに「新卒の面接」「会社説明会」を廃止、なぜ? 万博「大屋根リング」作った町工場の人材獲得の挑戦
採用難なのに「新卒の面接」「会社説明会」を廃止、なぜ? 万博「大屋根リング」作った町工場の挑戦

2025年に開催された大阪・関西万博のシンボル「大屋根リング」で木材を固定する金具部品を製造した幣用工業(大阪府大東市)は、採用過程の会社説明会と新卒面接を廃止した。金属加工を主力とし、鉄道車両部品や大型フレームも手掛ける従業員数約120人のモノづくり企業だ。

人手不足が深刻化する中、大企業に比べて知名度や採用リソースに制約のある中小企業は、採用シーンで劣勢に立たされることもある。同社で採用戦略を担う約2年半前に入社した釘指利光氏(最高人事責任者)は、売り上げを伸ばすためには人と組織を育てる必要があり、そのために人材を採用するという考え方で取り組んできた。

クレドの策定から始まった文化づくり

釘指氏が着任直後に取り組んだのは、採用施策を増やすことではなく、会社の文化を言語化することだった。出発点は社内活動のよりどころとなる行動指針や価値観をまとめた「クレド」の策定。背景には「採用するためにはまっとうな人事評価の制度がないといけない」(釘指氏)という考えがあり、学生から評価制度について質問される機会が多かったことから、評価項目を整理する中で、そもそも会社が大切にしてきた文化・価値観は何かを明確にする必要があると気付いたという。

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ベテラン社員へのヒアリングを重ねて会社に根付く価値観を言語化。釘指氏は「私がクレドを作ったというより、社員の皆さんの声をまとめて文字にした」と振り返る。完成したクレドはカードにして配り、各部署の朝礼で読み合わせている。朝礼ではスケジュール共有のほか、「今日はこのクレドを意識して仕事をする」と一人一人が宣言する運用を始め、その後は「ビジョン」の策定にも着手した。社員の参加を促し、会社としてどこを目指すのかを議論する場を設け、こうした文化づくりの延長線上に採用を位置付けている。

会社説明会を廃止し、面接の代わりに始めたこと

採用手法にも新たな試みを取り入れた。昨今はAI技術が発達し、学生が採用面接で自己アピールに使う「ガクチカ」(学生時代に力を入れたこと)の完成度が高まっている。しかし釘指氏は、採用の基盤になるのは「予習できないこと」にあると考えた。

そこで同社は会社説明会を廃止し、バーを貸し切った交流会を実施。会社の考え方に共感した人だけが採用選考へ進む形式に変えた。新卒採用では面接を行わず、工場を自由に見学できる「フィールドワーク」を取り入れ、学生には「見学してください」と伝えて社員の話を自由に聞いてもらう。

会社の良い面だけを見せようとはせず、工場のにおいや作業環境も含めてそのまま体感してもらう。「他社とは全く違って面白かった」という学生もいれば、「自分には合わない」と感じる学生もいる。釘指氏はそれで構わないと考え、採用では人数よりも、その人が持つストーリーに目を向けたいという。

工場見学中の学生が現場社員に質問すると、社員もクレドという共通言語を使って会社の考え方を説明できるようになった。理念と現場の仕事が結び付き、学生に会社の姿を伝えやすくなったという。

本記事は、人材サービスのビズリーチ主催イベント「BizReach Conference」(7月1〜2日開催)の講演「中小製造業の採用成功事例に学ぶ。勝てる採用体制と文化づくりのポイント」を基に構成したもの。

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