商社時価総額争い激化、三菱商事と伊藤忠が攻防
商社時価総額争い激化、三菱商事と伊藤忠が攻防

中東情勢が揺れ動く中で年明け以降の大手商社の株式時価総額の変動が激しさを増している。特に、年明け以降の三菱商事と伊藤忠商事のトップ争いは興味深い。米投資会社バークシャー・ハザウェイが日本の5大商社へ投資したのをきっかけに商社の時価総額は高い水準を維持している。一方で、最近は商社株に対する市場の見方に“変化”もみられる。

時価総額の推移と逆転劇

株式時価総額は市場が企業の業績や成長性を総合的に評価する指標と言える。大手商社の時価総額は2026年1月中旬までは伊藤忠がトップを走っていた。2025年度に、伊藤忠は経営指標で「3冠(純利益・ROE・時価総額)」達成を掲げ、連結純利益は9003億円とトップに立った。三菱商事の8005億円、三井物産の8340億円を抑えて5年ぶりの商社トップに返り咲き、資本効率を示すROE(自己資本利益率)も14.6%と三菱商事の8.5%、三井物産の10.2%を上回ったことを反映していたと言える。

だが、1月中旬以降には、三菱商事が逆転する。さらに、3月末には三菱商事の時価総額22.8兆円に対して、伊藤忠は15.8兆円と7兆円まで差を広げることになった。地政学リスクを背景に、資源に強みを持つ財閥系商社へ資金が集中し、三菱商事に高い価値をつけた。

中東情勢が資源価格に影響

三菱商事と三井物産は、LNG、原料炭、鉄鉱石、銅などの資源に強みを持つ。中東での武力衝突が激化した結果、ホルムズ海峡の通航が大幅に制限され、世界のLNG供給が海上で足止めされる事態となった。

3月中旬にはカタールにある液化天然ガス(LNG)輸出拠点のラスラファンが攻撃された。LNG生産設備が被害を受け、世界有数のLNG供給設備の稼働率が長期に渡って低下することになり、LNG価格の急上昇につながった。

三菱商事や三井物産は、中東以外にも多くの資源権益を持っている。このため、カタール発の供給不足による世界的な価格上昇は、業績を押し上げるとの期待が高まり、伊藤忠との時価総額に大きな差を生んだ。

差の解消と「稼ぐ力」への注目

だが、そこから半年あまりが経過し、三菱商事と伊藤忠の時価総額の差は解消した。9月14日の伊藤忠商事の時価総額は18.4兆円となり、三菱商事の18.3兆円をわずかながら上回った。

三菱商事が5月に発表した業績見通しによると2026年度の純利益見通しは1兆1000億円。過去最高益を更新し、初めて1兆円の大台を突破した2022年度の1兆1807億円に迫る水準となる見込みだ。2026年度第一・四半期の純利益は前年同期比47%増の2985億円と好調で、油価が高値で推移していることの増益効果は第二・四半期以降に精査するとしている。

両社の時価総額の差が解消した背景には、米国によるイランへの攻撃がそう長くは続かず、原油やLNG価格は安定に向かうのではないかという市場の観測がある。一方で、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)調査部の古藤太平氏は「欧米メジャーは年内のカタールからの出荷は見通しから外している。米国の継戦能力にかかわらず、中東情勢が落ち着きホルムズ海峡に自由な航行が戻ってくることは想定し難いというのがコンセンサスだ。エネルギーセキュリティには相応の追加コストがかかる」と語る。先行きは見通しにくい。

仮に資源価格の上昇余地が限られるなら、各社は、自らのビジネスモデルで付加価値を生み出し、市場の評価を得る必要がある。半年間での時価総額の逆転は、株式市場が「資源価格の恩恵」だけでなく各社の「稼ぐ力」に注目しているとの見方もできる。

各社の成長戦略とバークシャーの影響

各社が強みとする収益構造と成長戦略は異なっている。三菱商事はLNG、銅といった中長期的な需要増が見込める領域へ布石を打っている。これらは将来の収益基盤となることが期待され、日本のエネルギー安全保障にも貢献する。一方で、回収までの期間は長く、市況リスクの影響は受けやすい。このため、非資源分野のサーモン養殖事業の世界展開などに注力する方針を掲げている。食料資源のほか、消費者のニーズを起点(C)にして事業(B)を構築する「B to Cバリューチェーン」など市況変動の影響度が低い事業に多角化を進める。

非資源商社の代表格である伊藤忠商事は、デサントやファミリーマートといった消費者に近い分野に強みを持ち、資源価格の変動に左右されにくい事業ポートフォリオを構築している。2026年度に過去最大となる1.5兆円の新規投資は、航空機リース会社や、電通総研への出資案件など、既存事業とのシナジー(相乗効果)が見込める分野が柱だ。

住友商事は、デジタル分野へ注力する方向性を打ち出した。完全子会社化したシステム開発会社のSCSKを核に、人工知能(AI)を活用した事業モデルの構築を加速する考えだ。住友商事グループとSCSKの協業を進めて、新たな収益源となるビジネスを生み出すことも狙っている。

9月上旬にバークシャー・ハザウェイのグレッグ・アベル最高経営責任者(CEO)らが来日した。バークシャーは2019年から5大商社すべての株式を買い増しており、足元では各社の株式を10%以上保有する大株主だ。バフェット氏らは日本の商社株を「フォーエバー(永久に)」保有すると発言している。バークシャーの大手商社株への投資は、コングロマリットディスカウントと言われた商社株へのネガティブな評価を変えるきっかけにはなった。

ただ、大手5社の株式時価総額の合計額は3月の約74兆円から直近は落ち込んでいる。資源価格の動きに関わらず、商社の稼ぐ力への市場の評価が高まったとまでは言えない。「資源価格の変動で短期的に投資先を乗り換えるのではなく、商社が本質的に有望だと注目されるレベルにはまだ至っていない」(商社幹部)のが現状だ。

混迷する世界経済の中で、コングロマリットの強みを活かし、独自の成長戦略を描く総合商社は各社の成長投資の成否が、より株価を左右することになる。今年2月から9月を振り返ると、資源価格上昇による時価総額の押し上げ効果はあったが、資材価格の高騰、サプライチェーンや物流が混乱する局面で、総合商社が持つ調達・物流機能が求められた。

地政学リスクや資源価格の急変動は外部要因であり、予見が難しい。そのため、市場の関心は短期的な資源価格の変動から、着実な成長投資の実行力や利益の予見可能性の高さへと移っていくだろう。

伊藤忠が第一・四半期決算で全セグメント増益を達成し、市場が市況に左右されない底堅い収益力に着目し、時価総額の格差解消の一因になったことは、好例かもしれない。

バークシャーの投資は、総合商社のビジネスモデルに対する「お墨付き」となった。従来は事業が多岐にわたり理解しづらいと見なされていた側面が、地政学リスクや市場変動に直面した際には、地域や顧客が分散した、底堅い収益基盤と再評価されつつある。

ただ、幅広い事業を抱えているがゆえに「今後どの分野に注力していくのか」が見えにくくなるという本質的な課題は依然として残る。言葉だけでなく実績を積み上げ、明確な成長戦略を示し続けることで市場の期待に応えていく必要がある。