作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏は、旧日本陸軍の『作戦要務令』を「現代企業のための優秀な経営書」と評価している。戦争において、味方が優勢で攻勢を強めている時には、多少作戦が粗くとも勢いによって勝敗が決まることがある。しかし、本当に組織の力量が問われるのは、むしろ劣勢に立たされた時だ。
『作戦要務令』とは何か
旧日本軍といえば「精神論」「玉砕」「バンザイ突撃」といった非合理的なイメージで語られることが多い。実際、太平洋戦争末期の日本軍は現実を無視した突撃を繰り返し、多くの犠牲者を出した。その一方で、日本陸軍には極めて合理的で冷静な撤退戦マニュアルが存在していた。それが『作戦要務令』である。
そこには、不利な状況でどう戦力を維持するか、どのように撤退線を設定するか、いかに組織崩壊を防ぐか、限られた時間と資源の中でどう意思決定するかといった問題が、驚くほど論理的に整理されている。
企業経営にも通じる教え
戦後、この教範を経営論として読み直した元陸軍参謀の実業家・大橋武夫は、『作戦要務令』を「現代企業のための優秀な経営書」と評価した。そこには、状況判断、決心、命令、監督を循環させる組織運営論が存在しているからだ。
企業もまた組織であり、撤退できない、過去の成功体験に拘束される、現場が硬直化する、不完全情報の中で決断できないといった問題を抱えている。現在の日本社会そのものが、そうした「撤退不能」の問題に直面している。重要なのは、優勢な時にどう前進するかではなく、不利な状況でどう生き残るかである。
佐藤氏は、『作戦要務令』を手がかりに「撤退」という視点から日本型組織の本質を読み解こうとしている。



