昭和5年に建てられた母屋、離れ、2階建ての蔵、庭、雑木林、竹林を有する広大な旧家の敷地。家の管理を全て担っていた祖父母が亡くなり、その後を追うように父も他界したことで、Aさん母子は途方に暮れた。日々成長する雑草に加え、庭や林の維持管理に莫大な費用がかかり、地元のシルバー人材センターに依頼したところ驚くほどの額を請求されたという。
不動産会社も敬遠した「古い建物あるある」の山
「これでは持ち切れない」と判断したAさんは、全ての不動産を手放そうと地元の不動産会社に相談。しかし、期待した連絡は来ず、問い合わせても「のちほど」と言われるばかりで、扱いたくないのだと察した。不動産業を営む友人に「1500万円くらいで売れたら」と相談したところ、「そんな面倒くさいことはとてもやりきれない」と断られた。
理由は、図面と実際の建物の不一致、未登記の建物、何代も前の親族名義で登記されているなど「古い建物あるある」が山積みで、仲介手数料では割が合わないというもの。Aさん自身も営業職として、会社がこの作業を請ければ赤字になりかねないと納得したという。
「家いちば」がもたらした転機
そんな中、Aさんは新聞で空き家の掲示板「家いちば」の記事を目にする。「家いちば」は、空き家の所有者が売りたい物件の情報を自ら掲載し、最終契約まで売り手と買い手が主体となって交渉を進める「セルフセル」方式を採用。運営者の藤木哲也さんのアドバイスを受けて情報を掲載したところ、あっという間に20件ほどの問い合わせが集まった。
「それまで家の電話が鳴ると、落ち葉やその他のクレームかとドキッとしたものですが、家いちば経由の問い合わせでは物件や立地を褒めていただくことが多く、ほっとしました」とAさんは振り返る。
理想の買い手との出会い
問い合わせを受け付け始めたタイミングで見学会が開かれることになり、その直前に取材者が訪れた。当時、建物や敷地内には全く手が入っておらず、特に蔵には箪笥や昔の水車の車輪など大小様々な物が乱雑に詰め込まれ、雑木林も荒れ始めていた。台所もどこから手を付ければいいか呆然とするほど荒れ果てていた。
しかし、この物件に惹かれたのは、子どものアート教育を手掛ける団体「芸術による教育の会」。同団体は、この広大な敷地を「子どものアートの森」として再生する構想を抱いていた。所有者が譲りたい人を選べる「家いちば」の仕組みが、不動産会社には敬遠された物件と、理想的な買い手を結びつけたのだ。
空き家マッチングの可能性
この事例は、空き家問題の解決策として、所有者と購入希望者を直接つなぐマッチングの有効性を示している。従来の不動産仲介では扱いにくい物件でも、売り手が自ら情報を発信し、価値を見出す買い手と出会うことで、新たな活用が可能になる。Aさんの旧家は、廃墟から子どもたちの創造性を育む場へと生まれ変わろうとしている。



