建設業界において、建設費の高騰が深刻な問題となっている。その原因は単なる資材価格の上昇だけではなく、長年にわたるデフレ時代の慣行がインフレ時代に適応できず、施工能力の不足が顕在化していることにある。この状況は、再開発プロジェクトや公共工事の停滞を引き起こし、経済全体に影響を及ぼしつつある。
デフレ時代の慣行がもたらした歪み
デフレ時代には、建設需要が縮小する中で、ゼネコン各社は価格競争にさらされていた。工事受注を勝ち取るために、賃金は上がらず、資材価格も低下する「デフレ前提」で工事費を見積もり、施工段階での工夫で利益を確保するのが常套手段だった。しかし、このやり方を変えないままインフレ時代に突入したことで、デフレ想定で受注した工事では、資材価格や労務費の上昇を吸収できず、利益率が急激に悪化した。その象徴的な例が、清水建設が2024年3月期決算で上場以来初となる営業赤字に転落したことである。
現在、それらの工事が一巡し、インフレ想定で受注した工事の売り上げが計上できるようになり、ゼネコンの業績は改善傾向にある。今後もインフレが続くことが想定されるため、工事費にインフレリスクを適正に反映する動きが進んでいる。大成建設では、限られた施工能力をより利益率の高い工事に振り向けることで、一段の収益向上を目指している。
オープンブック方式の普及が鍵に
ゼネコンの見積もり方法の見直しは、発注者側から見ると建設費が急に高騰したように映る。不動産協会が2025年11月に日本建設業連合会(日建連)に対して「建築費高騰等の問題に係る緊急申し入れ」を行った背景には、発注者と受注者の間で十分な意思疎通が図られていなかったことがある。
日本では、工事費の見積もり方法として、材料費と労務費の内訳を明示せずに工種ごとに一式で計算する方式が長年の慣行となっている。この見積もり額には、インフレリスクや工期の遅れなど様々な不確定要素が事前に盛り込まれているのが前提で、民間工事では契約後に請負金額を見直すことが難しかった。欧米で普及している「オープンブック」方式は、工事費の内訳を透明化し、インフレリスクを適切に反映できるため、日本でもその導入が求められている。
入札不調が9割超の現場も
施工能力不足の影響は、公共工事の入札にも及んでいる。国土交通省の調査によれば、一部の地域では入札不調率が9割を超えるケースも報告されており、公共工事の遅延や中止が相次いでいる。特に、人手不足が深刻な地方では、技術者や技能労働者の確保が難しく、工事の施工そのものが困難になっている。この状況が続けば、社会インフラの整備や更新が滞り、地域経済に悪影響を及ぼすことが懸念される。



