金のためでも人助けでもない…35歳薬剤師が84歳女性の焼き鳥店を継いだ理由
35歳薬剤師が84歳女性の焼き鳥店を継いだ理由

東京・江東区大島の焼き鳥店「やきとり日和」では、30代の薬剤師と80代の先代女性が並んで鳥を焼く光景が見られる。元の店は1982年創業の「徳光」。2024年秋、高齢を理由に閉店が決まったが、隣の薬局で働く蛯原崇晶さん(35)が、「ほぼ勢いだけ」で後継者に名乗り出て店を継いだ。経験ゼロの薬剤師がなぜ老舗の暖簾を引き継ぐことになったのか。

「お隣さん」の焼き鳥店を継いだ薬剤師

「やきとり日和」のオーナー・蛯原崇晶さんは、2024年6月に隣の「あい薬局2号店」で働き始めた。同僚から「すごくおいしい」と聞き、徳光の焼き鳥を買いに行ったのが始まりだ。「安いし、めちゃおいしかったです。それに、徳田さんが常連さんと話してる姿が印象的でした。長年やっているお店として、地域に愛されてる感じがしたんです」と振り返る。

徳田千恵子さん(86)は「徳光」の創業者で、2024年秋に高齢を理由に閉店を決めていた。閉店の報を聞いた蛯原さんはショックを受け、「ほぼ勢いだけで」後継者に立候補。2024年12月、店名を「やきとり日和」に変えて再オープンした。現在も徳田さんは週2日出勤し、蛯原さんのサポートを続けている。

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負けず嫌いの薬剤師、フリーランスとして再び大島へ

蛯原さんは1989年、東京・葛飾区生まれ。子どもの頃は地元の商店街に活気があり、下町文化でのびのびと育った。大学卒業後、薬剤師として最初に働いたのが江東区大島の大きな病院だった。その後、調剤薬局での勤務を経て、フリーランス薬剤師として独立。再び大島で働くことになった。

「フリーランス薬剤師という働き方があると知り、自分もやってみたいと思ったんです」と蛯原さん。フリーランスとして複数の薬局で勤務する中で、あい薬局2号店にたどり着いた。徳光が閉店すると聞いた時は、「この店がなくなるのはもったいない」と感じたという。

「本当なの?大丈夫?」——周囲の反応と焼き鳥店の難しさ

後継者に名乗り出た時、徳田さんは「本当なの?大丈夫?」と驚いた。焼き鳥の経験が全くない蛯原さんに、周囲も半信半疑だった。しかし、蛯原さんは「好き」という気持ちだけで決断した。

焼き鳥店の仕事は想像以上に難しかった。串打ちの技術、火加減、仕入れの管理など、覚えることは山積み。徳田さんの存在感は今も絶大で、「徳田さんがいなければ店は回らない」と蛯原さんは認める。それでも、毎週金曜日は隣の薬局で白衣を着て薬剤師として働き、二足のわらじを履きこなす。

「お金儲けではなく、店を長く続ける」

蛯原さんの目標は「お金儲けではなく、店を長く続けること」。薬剤師と焼き鳥店主の二足のわらじには、意外なシナジーがあるという。「薬局では『お大事に』、焼き鳥店では『ありがとう』と言えるのが嬉しい。どちらも人とのつながりを感じられる仕事です」と語る。

「やきとり日和」は、町の文化のような存在として地域に根付いている。蛯原さんは「この店を守り続けたい」と話す。徳田さんも「蛯原さんなら安心」と信頼を寄せる。

地域に愛される店を次世代へ

蛯原さんの挑戦は、単なる事業承継ではない。地域の文化を守り、人とのつながりを大切にする生き方の選択だ。薬剤師としてのキャリアを活かしながら、焼き鳥店の暖簾を守る。その姿は、多くの人に勇気と感動を与えている。

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