「圧倒的ナンバーワンでなければ意味がない」――ソフトバンクグループを率いる孫正義氏のこの言葉を体現するかのように、日本のキャッシュレス市場に革命を起こしたPayPay。その誕生には、ヤフー(現LINEヤフー)とソフトバンクの思惑が交錯するドラマがあった。前LINEヤフー会長の川邊健太郎氏が、PayPay立ち上げの裏側を語る。
「辺境の小国」としての決断
既存プレーヤーがひしめく決済市場にどう挑むか。川邊氏は「インターネット産業の30年」史観で振り返り、いくつかのターニングポイントを挙げる。1つ目は、まったく新しい別会社を立ち上げたことだ。
ヤフーは上場企業であり、四半期ごとの業績や株主への説明責任が伴う。大きな会社の一部門として新サービスを立ち上げると、予算や人員の優先配分が難しく、大胆な意思決定がしにくい。そこで、ヤフーという「本丸」から遠く離れた「離れ小島」のジョイントベンチャー(JV)を設置。ヤフーの論理や勝ちパターンに縛られない、スピーディーな意思決定が可能となった。
「単体アプリ」という決断
2つ目のターニングポイントは、PayPayを単体のアプリとして提供したことだ。当時、Yahoo! JAPANアプリはすでに国民的アプリとなっており、社内では決済機能を内蔵する案が多数を占めた。川邊氏自身も「それ以外の選択肢は頭になかった」と振り返る。
しかし、ソフトバンク側は「単体のアプリとしても出すべきだ。最終的にどちらが伸びた方をメインにすればいい」と主張。川邊氏は「え?と耳を疑った」という。ソフトバンクはスマホシフトをいち早く経験しており、1つのアプリに全サービスを集約するより、各サービスが独立したアプリで提供される感覚を持っていた。この「イノベーションのジレンマ」こそが、ヤフー社内の常識を覆すきっかけとなった。
大国の片隅に生まれたPayPay
かくして、LINE Payや楽天ペイといった巨大なプレーヤーがひしめくキャッシュレス市場の片隅に、辺境の小国・PayPayが誕生。川邊氏は「インターネット産業史に残る壮大な大河ドラマの幕が静かに上がった」と語る。この決断が、後のキャッシュレス市場の覇権争いを大きく変えることになる。
(後編に続く)



