NECは4月、米AI企業Anthropic(アンソロピック)とグローバルパートナーシップを締結した。日本企業として初めてAnthropicのグローバルパートナーとなり、生成AI「Claude」(クロード)を活用した業種別のAIソリューション開発や、NECグループへのClaude展開を進めている。Claudeを社内利用の標準基盤(ベース)に据え、「AIネイティブカンパニー」への転換を急ぐNEC。その背景では、最新AIモデル「Claude Mythos」(クロード ミュートス、以下Mythos)が持つ強靭(きょうじん)な脆弱(ぜいじゃく)性発見能力の悪用リスクを踏まえ、世界中の政府機関が警戒を強めている。
テクノロジーが進化する中で、NECはセキュリティをどう実装し、データ主権を守り抜くのか。NECの森田隆之社長は、ロンドンでのAnthropicとの直接交渉からわずか3週間で合意に至った背景と、NECが掲げる「4つの主権」(ソブリン)の真意を明かした。
「4つの主権」の真意とは
森田社長は、2025年5月に発表された中期経営計画(中計)の中で、AI産業革命の時代には自ら変革し、AIネイティブカンパニーを目指すと説明した。AIネイティブカンパニーを一言で定義するなら、「ビジネスのやり方や、業務における意思決定のプロセスそのものが変わる」と森田社長は語る。「教育や仕事の在り方、時間の使い方も含めて全てが変わってくるでしょう。AIネイティブカンパニーを目指すということは、そういった新しい価値観や産業構造を理解した組織や会社になっていくという意味です」
森田社長は、NECが重視する「4つの主権」として、データ主権、AI主権、サイバー主権、そしてデジタル主権を挙げる。特に日本企業にとって、データを自国で管理し、AIを自社の業務に最適化する「AI主権」の確保が重要だと強調する。「日本のデジタルインフラの安全性を確保するためには、国産AIが必須です。NECはその中核を担う責任がある」と述べた。
Anthropicとの提携のスピード感
Anthropicとの交渉は、2025年4月にロンドンで行われた直接交渉からわずか3週間で合意に至ったという。このスピード感について森田社長は、「Anthropicに限らず、グローバルトップの企業は意思決定のスピードが非常に速い。トップ自らが動いてスピーディーに決断していくため、我々もそのスピード感に合わせた動きをしなければなりませんし、それはNECでも十分に可能だと確信しています」と語る。
また、世界は意外と小さく、こうしたイノベーションの中核的な人脈(インナーサークル)に日本企業としてしっかり入ることが極めて重要だと強調。今回の交渉では、Paul Smith CCO(最高事業責任者)のミーティングの進め方や、ミーティング後のコミュニケーションが非常にスピーディーで気持ちの良いものだったと振り返る。「日本企業もやろうと思えばできるはずですし、実際にそのように動こうとしている国内企業も増えていると感じています」
Mythosのセキュリティ活用と実装の重要性
Anthropicの最新モデルMythosは、これまで発見できなかったさまざまなセキュリティの脆弱性や欠陥を特定し、公表してきたことで注目を集めている。森田社長は、「最新のAIモデルによってセキュリティ上の欠陥を見つけられるということ自体は、AnthropicのMythosやClaude Opusに限らず、米GoogleのGeminiや米OpenAIのモデルも含めて共通して備わっている能力です」と指摘する。
「その中でMythosがこれほど注目されている理由は、かなり早い段階から、これまで発見できなかったさまざまなセキュリティの脆弱性や欠陥を特定し、公表してきたからだと考えています。この意味で、こうしたフロンティアモデルをセキュリティの観点から継続的に活用していくことは、今後必須になると確信しています」
すでに一部の金融機関やテクノロジー企業など、重要な課題に直面する分野の企業にアクセスが認められている。これはMythosに限らず、生成AIの最先端モデルをセキュリティに活用していく上で、どの国、どの領域においても必要になってくるプロセスだと述べる。
ただし、実際にはそうした脆弱性発見ツールやAIモデルにアクセスできるだけでは不十分だ。「そこで見つかった問題の中から、本当に手当てすべきセキュリティ上の問題をきちんと特定し、対策を講じ、実際のシステムへ『実装』していくことが重要であり、そこまでやり遂げて初めて意味のある対応になります。テクノロジー企業やソフトウェア企業が対策を検討するだけでなく、現場でいかに『実装』していくかが求められています」
今後の展望とマルチモデル戦略
NECは、今後の業種別の特化型AIの開発についても、Anthropicと連携していくことになる。同時に、自社開発の「cotomi」も含め、必要なときには複数のモデルを自在に使い分けることで、トークン(データ単位)当たりのコストとアウトプットを最適化できる形で提供していく方針だ。
「例えばサービスによっては、最先端の巨大モデルではなく、より軽量なモデルをベースにしてファインチューニング(追加学習)を施した方が、効率的かつ効果的に機能するケースも出てきます」と森田社長は説明する。
一方、社内でのソフトウェア開発やコーディングを含め、NEC自身が内部的に利用するものについては、ある程度の標準化が必要だ。現状、社内利用のベースにはClaudeを据えており、他のAIを併用するにしても、一定の標準化を進めていく経営判断をしているという。



