6月下旬、ドイツを記録的な熱波が襲い、国内観測史上最高となる41.8℃が観測された。救急出動や交通インフラの被害が相次ぎ、冷房需要の急増で卸電力価格は一時、平年の約6.6倍に跳ね上がった。なぜ「環境先進国」とされてきたドイツは、ここまで暑さに脆弱だったのか。背景には、脱原発、ロシア産ガスという安全弁の喪失、そしてエアコン不足という「3つの安全網」の薄さがあると、国際政治学者で群馬県立女子大学非常勤講師の伊藤隆太氏は指摘する。
41.8℃が暴いた「環境先進国」の急所
ドイツ気象局(DWD)が公表した月間概況によれば、6月27日、ドイツ中部のザクセン=アンハルト州の観測所ドリューヴィッツで41.8℃を記録。翌28日にはブランデンブルク州コッシェンでも41.7℃を観測し、広い範囲で40℃以上の酷暑日となった。熱波はドイツ社会の広範囲を揺さぶった。
被害は人命に表れた。ドイツの有力紙ヴェルトによれば、ロベルト・コッホ研究所(RKI)は4月6日~6月21日の熱関連死を810人と推計。熱波が本格化する前の数字で、犠牲は85歳以上に集中した。救急も押し込まれ、ベルリン消防は28日に2055件、29日に2083件の出動を記録し、通常日の1500~1700件を大きく上回った。脱水や熱射病で病院へ運ばれた人も多かった。
電力価格は一時6.6倍、エアコン普及率は約3%
交通インフラにも被害が広がった。欧州の報道機関「ユーロニュース」によれば、ブランデンブルク州やザクセン=アンハルト州の高速道路で路面損傷による通行止めが続き、ライプチヒでは路面電車の線路上のアスファルトが溶けた。暑さは健康、医療、交通を同時に揺さぶった。
冷房需要の急増で、ドイツの卸電力価格は正午の時間帯に一時、通常の約6.6倍に高騰。背景にはエアコン普及率の低さがある。ドイツのエアコン普及率は約3%と試算されており、家庭用冷房設備が圧倒的に不足している。「エアコンを使わない美徳」という文化が、かえって命を削る結果となった。
「原発・ガス・冷房」という3つの安全網
伊藤氏は、ドイツがかつて持っていた「3つの安全網」が失われたと分析する。第一に、脱原発により安定したベースロード電源を失った。第二に、ロシア産ガスという安価なエネルギー源を、ウクライナ情勢を受けた制裁で断った。第三に、冷房インフラが未発達で、熱波への適応力が低い。これらの安全網が同時に機能しなくなったことで、ドイツは暑さに脆弱になった。
特に原発は、一度手放すと簡単には戻せない。ドイツは2023年に最後の原発を停止したが、再稼働には長い時間とコストがかかる。一方、日本は多くの原発を維持しており、電力供給の安定性という点で強みを持つ。
日本のエアコン普及率は90%、原発維持の強み
日本のエアコン普及率は約90%と世界トップクラスであり、熱波に対する適応力は高い。また、原発を完全に手放さなかったことで、電力の安定供給を一定程度確保している。伊藤氏は「『原発か再エネか』という二者択一ではなく、リスク分散の観点から多様な電源を維持することが重要」と指摘する。
今回のドイツの熱波は、環境政策と現実のリスク管理のバランスの難しさを浮き彫りにした。日本はドイツの事例から学び、エネルギー安全保障と気候変動対策の両立を図る必要がある。



