ニッカウヰスキーの「ブラックニッカ」は、2022年に売上容量ベースで日本一を達成した。しかし、かつては売上の伸び悩みに直面し、ブランド再構築が急務だった。その鍵となったのが、独自フレームワーク「クロスピラミッド」による買い手分析と、商品の強みである「ノンピート麦芽」を前面に打ち出した戦略である。
「飲みにくそう」の先入観をどう覆したか
ブラックニッカは1956年発売の老舗ブランドで、ヒゲの男性のラベルがトレードマーク。そのシリーズの一つ「ブラックニッカクリア」(以下「クリア」)は、スモーキーな香りを抑えた飲みやすい商品だったが、年月とともに売上は頭打ちとなった。初心者からは「ウイスキーは飲みにくい」という先入観が壁となっていた。
そこで同社は、クリアの強みである「ノンピート麦芽」(ピート(泥炭)で燻製していない麦芽)を使用したすっきりとした味わいに着目。これを「飲みにくそう」というネガティブなイメージを覆す武器とした。アグリエール代表取締役の浅野恭弘氏は、「初心者がウイスキーに抱く『飲みにくい』という先入観を、クリアの持つ軽やかさで打ち破る戦略を立案した」と述べている。
ラベルを小さく、ボトルは輝く――軽やかさを可視化
ブランド再構築では、デザインも大幅に刷新された。従来のラベルはヒゲの男性が大きく描かれていたが、新デザインではラベルを小さくし、ボトルのガラス面を広く取ることで、中身の透明感を強調。ボトル自体にもカッティングを施し、光を受けて輝くようにした。これにより、「重厚で難しい」というイメージから、「軽やかで親しみやすい」という印象へと転換を図った。
浅野氏は「ラベルを小さくしたことで、ボトル全体が明るく見えるようになり、手に取りやすくなった。これは、商品の特性を視覚的に伝える重要な施策だった」と説明する。
クロスピラミッドで買い手を徹底分析
この戦略の背景には、独自フレームワーク「クロスピラミッド」による徹底した買い手分析がある。これは、購買行動を「認知」「興味」「購入」「リピート」の段階に分け、各段階での課題を特定する手法だ。クリアの場合、「認知」はあるが「興味」に結びついていないことが判明。そこで、飲みやすさを訴求するメッセージと、それに合わせたデザイン変更で、興味喚起を狙った。
結果、クリアの売上は回復し、ブラックニッカ全体として2022年に日本一のシェアを獲得。浅野氏は「弱点を強みに変える発想が、ブランド再生の原動力となった」と総括している。
本稿は『ブランディング一年目の教科書 売れる価値のつくり方』から抜粋・編集したもの。



