山口市湯田温泉の老舗旅館「西の雅 常盤」は、1936年に6室の小さな旅館「常盤旅館」として創業した。その後、経営危機を乗り越え、現在は90室を擁する規模に成長。その原動力となったのが、81歳の大女将・宮川高美さんが主宰する「女将劇場」だ。この劇場は、宿泊客を巻き込み、バブル崩壊やコロナ禍という逆風をはね返してきた。
「はみ出し芸」から生まれたエレキ琴ショー
1991年の3号館建設直後にバブル経済が崩壊。客足が遠のき、借金が重くのしかかる中、高美さんは経費削減のため宿泊客をステージに上げることを思いついた。銭太鼓、餅つきショー、玉すだれ、踊りなど、客の協力で多彩な演目が実現。出演料は出せなかったが、快諾する客が続いた。
この時期、高美さんは新たな演目としてエレキ琴を導入。4歳から習ってきた琴をエレキ仕様に改造し、激しくかき鳴らすロックンロール調の演奏を披露した。琴柱が飛び散り、スタッフが拾い集めるパフォーマンスは「賛否両論」を巻き起こし、「はみ出し芸」「湯田の笑われ者」と批判された。琴の先生は怒って二度と来なくなったという。しかし、批判が注目を集め、新聞やテレビで取り上げられると予約や問い合わせが急増した。
苦しい時こそ勝負をかける経営哲学
高美さんは「クレームも人気のうちだと思って堪えました。うまくいかないときは、もっと悪くなるか、よくなるかのどちらかしかない。その判断を間違えちゃいけないんですよ」と語る。この精神で、コロナ禍でも「女将劇場」を続け、従業員や外国人スタッフと共に乗り切った。現在もバスツアー客が押し寄せる人気宿として、高美さんは「90歳まで続けます」と意気込んでいる。



