トランプ政権は、通商法301条に基づく新たな関税を、アメリカと通商関係がある60カ国・地域に対して発動した。全輸入品に10%または12.5%の関税を課すもので、差し止めと払い戻しを求める提訴もすでに行われている。
IEEPA失効後に登板した「3人目の投手」
今回の301条関税は、いわば「つなぎ」の投手だ。関税政策の法的根拠として使われてきたIEEPA(国際緊急経済権限法)には150日間という期限があり、その150日目が7月24日に到来。トランプ政権は次の手を打つ必要に迫られ、通商法301条を起用した。
通商法301条は、相手国がアメリカ製品を排除するような不当な行為をしている場合、狙い撃ちで対抗措置を取れる法律。かつて「スーパー301条」が日本叩きの武器として使われたことでも知られる。
しかし今回は、60カ国・地域すべてについて「強制労働による製品を十分に排除していない」と認定。問題のある品目だけに絞るのではなく、貿易量全体の99%超を占める全輸入品に関税を課す「結論ありき」の措置だ。301条関税には過去の判例も多く、審理には時間がかかるかもしれないが、今回の措置もいずれ覆されるとの見方が強い。
関税収入が法人税収を上回る財政依存
現政権が関税にここまでこだわるのは、政治的信念というより「とにかく財政が持たない」という理由が大きい。IEEPAから通商法122条、そして301条へと法的根拠を付け替えながら、新しい財源を探し続けている。
CBO(アメリカ議会予算局)の見通しによれば、2026年度の関税収入は4180億ドル、GDP比1.3%と、法人税収を上回る見込みだった。さらにCBOは、IEEPA関税の廃止に伴い、向こう10年間の累積財政赤字が従来見通しより2兆ドル拡大すると試算している。
現在、税関では既に徴収済みの関税収入1660億ドルを、金利も付けて輸入業者に返済する煩瑣な作業が進められている。これではアメリカの長期金利が上昇するのも無理はない。
次なるリリーフ候補はスムート・ホーリー法338条
しかも「2025年大型減税・歳出法案」で法人や個人の税負担は軽減済みだ。税収減を関税収入が穴埋めしてきたため、関税を否定されれば、代わりの財源を探すしかない。イラン戦争の戦費という問題も横たわる。
ここから導き出される結論は「関税ゼロの時代には当分、戻れそうもない」ということだ。仮に301条関税がまた司法に否定されたら、ツギハギでも別の財源を見つけてくるだろう。投手が交代すればするほど、次に出てくる球は前より悪くなるものだ。
ちなみに次なるリリーフ候補は、1930年関税法、いわゆるスムート・ホーリー法の338条だ。悪名高き、ほぼ100年前の保護主義法案であり、これで「世界は大恐慌に」などということにならなければいいのだが。



