作家の橘玲氏は、著書『プアジャパン インフレ世界を生き抜く資本戦略』(プレジデント社)の中で、日本の資産格差について独自の分析を展開している。同氏によれば、日本では「みんなが平等に貧しくなったことで、格差が拡大しなかった」という不都合な真実が浮かび上がる一方、資産面では中間層の持ち家が重要な役割を果たしているという。
世界の平等化と日本の特異性
フランスの経済学者トマ・ピケティは、『21世紀の資本』で「r>g(資本収益率が経済成長率を上回る)」という不等式を示し、資本を持つ者の富が加速度的に増えると論じた。しかし、スウェーデンの経済学者ダニエル・ヴァルデンストロムは、最新の調査文献に基づき、欧米主要国(アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、スペイン、スウェーデン)の富の分布を詳細に検証し、「すべての国で経済格差が大幅に縮小し、先進国はますます平等になっている」と主張している(『資産格差の経済史 持ち家と年金が平等を生んだ』立木勝訳/みすず書房)。
20世紀初頭、どの国もトップ10%の富裕層が全私有財産の80~90%を保有する極めて不平等な社会だった。ところが、第二次世界大戦後、富裕層の富のシェアは急激に低下。特にイギリスでは80%超から50%弱まで下がった。その理由は、富裕層から貧困層への富の移転ではなく、主にマイホームによって中間層の富が増えたからだ。
日本の資産格差の現実
橘氏は、日本では4世帯に1世帯が金融資産ゼロであると指摘する。一方で、持ち家率は高く、不動産資産が家計の重要な柱となっている。しかし、インフレと金利上昇が進む中、物価上昇に賃上げが追いつかず、実質的な生活は苦しくなっている。橘氏は「経済的なリスクに正しく対処しつつ、家計の富をどう守り、増やしていくか真剣に考えるべきだ」と警鐘を鳴らす。
前回記事(「世帯所得250万円未満」が51.3%を占める)で所得格差を分析した橘氏は、資産格差についても同様の構造があるとみる。所得の差はわずかでも、複利運用により20年、30年後には大きな差が生まれるはずだが、日本では持ち家がその格差を緩和している可能性がある。
持てる者と持たざる者の分断
橘氏は「持てる者」と「持たざる者」の分断が進んでいると警告する。金融資産を持つ層はインフレ下でも資産を増やせるが、金融資産ゼロの世帯は物価上昇に苦しむ。特に、持ち家があっても価値がほとんどない「負の資産」に監禁される高齢者が増えているという。
「すべての経済政策が失敗した日本の未来」と題した橘氏の分析は、読者に厳しい現実を突きつける。日本は人手不足で失業率は低いが、実質賃金は上がらず、生活は厳しくなる一方だ。橘氏は、家計の富を守るために、インフレや金利上昇を見据えた資産運用の重要性を強調している。



