マンションリサーチは5月29日、東京都中央区・江東区の湾岸エリアにおける中古マンション市場の変化をまとめた調査結果を発表した。2021年1月から2026年5月25日までに公開された中古マンションの売り出し情報2万1264件を収集し、統計処理を実施。在庫数や販売日数、値下げ回数、成約単価などを分析している。
在庫が1年強で約1.5倍に急増
湾岸エリアでは近年、中古マンション価格が急騰してきた。晴海、勝どき、豊洲、有明といった主要エリアには国内実需に加え、海外投資家や富裕層マネー、転売目的の投資需要も流入。新築タワーマンションの価格上昇に連動し、中古市場も「多少高くても売れる」状況が続いていた。
しかし2026年に入り、市場に変化の兆しが表れている。「価格は高止まりしている一方で、流動性が低下」する現象が顕在化。2025年1月時点で約1050件だった在庫数は、2026年4月には約1500件に増加。わずか1年強で約1.5倍に膨れ上がった。
中古マンション市場で在庫増加は重要なシグナルだ。売り物件の増加という供給面だけでなく、買い手減少による売却長期化という需要面の弱含みも反映される。湾岸エリアでは価格高騰で実需層が購入しづらくなり、従来市場を支えてきたパワーカップル層や高所得ファミリー層でも資金負担感が強まっているとみられる。
在庫分布に偏り、高価格帯で滞留顕著に
調査では、シンボリックな高価格帯マンションの在庫推移を可視化。在庫減少傾向(流動性高い)を赤、横ばい(標準的)を黄、増加傾向(流動性低下)を青で示した地図によると、中央区内陸部や一部の住宅立地では安定した流動性を維持する一方、湾岸エリアでは青色の在庫増加傾向が広範囲に点在。買い手が価格についていけなくなっている可能性を示唆する。
特に湾岸タワーマンション市場では、含み益を背景に転売が活発化していた。価格上昇局面では売却益狙いの住み替えや短期売却も成約しやすかったが、現在は回転速度が鈍化。以前は即座に吸収されていた売り出し物件が滞留し始めている。
販売期間長期化、値下げ回数増加
販売日数と値下げ回数の推移も変化を示す。2026年以降に成約した住戸では値下げ回数が大きく増加し、販売期間も長期化。従来は強気価格でも短期間で成約したが、現在は売主が高値を維持しても買い手が追随できず、複数回の値下げを経てようやく成約に至るケースが増えている。
初回売出価格からの値下げ率も拡大傾向にあり、市場参加者の価格期待と実際の需要にギャップが生じている。売主側には「まだ上がる」期待が残る一方、買主側は金利上昇や景気不透明感、価格高騰疲れから慎重姿勢を強めている。
晴海タワーマンション、階層別に価格調整
晴海を代表するタワーマンションの階層別成約坪単価推移では、高層・中層・低層を問わず2025年末頃をピークに、その後はピーク時を下回る成約単価で推移。これは「相場崩壊」ではなく、「過熱した価格形成が調整局面に入り始めた」とみられる。湾岸タワーマンションは価格上昇局面で資産性期待が先行しやすい一方、市況変化時には価格調整圧力を受けやすい特徴がある。
注目すべきは、価格が調整し始めているにもかかわらず販売期間が長期化している点。現在の価格水準が需要サイドの許容レンジを超え始めている可能性がある。
今後の展望:実需層回帰の可能性も
今後、住宅ローン金利の動向や実体経済の変化次第では、「価格維持」より「流動性確保」を優先する売却が増える可能性がある。東京都中古マンション市場を牽引してきた湾岸タワーマンション市場は転換点に差し掛かっている。
一方で、これは必ずしもネガティブな変化だけではない。これまでの急激な価格高騰で実需層は「買いたくても買えない」状況が続き、ファミリー層は必要な広さを確保するには価格負担が極端に重かった。価格が調整局面に入ることで、市場から押し出されていた実需層が再び購入を検討しやすくなる可能性がある。流動性低下は市場崩壊ではなく、「過熱した価格が実需に近い水準へ正常化していく過程」とも捉えられる。
住宅市場では価格だけでなく売買成立が極めて重要だ。適切な価格帯への調整で購入検討者の裾野が広がり、市場全体の流動性が回復する可能性もある。湾岸エリアは交通利便性や眺望性、大規模開発による街の将来性など高い魅力を維持しており、その価値が急激に失われたわけではない。投資主導の市場から実需中心の安定した市場へ移行する可能性も考えられる。



