2017年11月、埼玉県鴻巣市の空き家を見学に訪れた。入り口から長く続く道の先に母屋があり、その背後には鬱蒼とした雑木林、竹林が広がっていた。空き家というと住宅だけをイメージする人も多いが、都市からほんの少し離れた場所に立地する空き家の場合、住宅に加え、雑木林や竹林、田畑、墓地、山などがあることも多く、それが問題を複雑にする。
雑木林や竹林の手入れが大きな負担に
田畑は農家以外には基本売却できないし、雑木林や山林は手入れに想像を超える多額の費用がかかる。Aさん母子も相続後、すぐにその問題に気づいた。近隣からの苦情で切り倒した巨木1本の処理に120万円、地元のシルバー人材センターに依頼する庭の草刈りが5人がかりで1週間かかって15万円、庭の手入れには庭師が必要で、雑木林、竹林は定期的に手を入れないとすぐに人が入れなくなってしまう。
週に一度、家が傷まないように風を通しに行くのも家が大きいだけに時間がかかって面倒。こんなに大変なら手放すしかないかもしれない。家族の決断から約10年。売却された雑木林と空き家は不思議な場所に生まれ変わっていた。
売りたい人と買いたい人をマッチング「家いちば」とは?
空き家の売却を決意したAさん母子が頼ったのが、空き家専門のマッチングサイト「家いちば」だ。同サイトは、売り手と買い手のニーズを丁寧にヒアリングし、条件に合った物件を紹介する。不動産会社が敬遠するような広大な敷地や手入れの難しい物件でも、理想の買い手を見つけることができるという。
「家いちば」の担当者は、「この物件は雑木林や竹林が広がる特殊な物件でしたが、子ども向けのアート教室を運営する会社からの問い合わせがあり、まさに理想のマッチングとなりました」と語る。
美術教室の運営会社には“もってこいの物件”だった
買い手となったのは、芸術による教育の会。同会は、子どもたちに自然の中でアートを楽しむ場を提供したいと考えていた。代表の田中氏は、「広大な敷地と雑木林は、子どもたちが自由に創作活動をするのに最適な環境です。廃墟だった建物も、改装すればアトリエやギャラリーとして活用できます」と話す。
購入後、敷地内の雑木林や竹林を整備し、母屋を改装。2020年には「子どものアートの森」としてオープンした。
子どもも大人も楽しめる空間に
「子どものアートの森」では、子どもたちが自然素材を使った工作や絵画を楽しめるワークショップが定期的に開催されている。また、大人向けのアート教室やイベントも行われ、地域の交流の場としても機能している。田中氏は「子どもは成長したがりだから、最高の遊び場を提供したい。この場所はまさにその理想を叶えてくれました」と語る。
「空き家のポテンシャルはこんなものではない」
今回の事例について、「家いちば」の代表は「空き家問題は深刻ですが、適切なマッチングがあれば、多くの空き家が地域の資源として生まれ変わります。空き家のポテンシャルはこんなものではない」と強調する。同サイトでは、今後も多様なニーズに対応したマッチングを進めていく方針だ。
手をつけられない空き家が増えている
日本全国で空き家は増加の一途をたどっている。総務省の調査によると、2018年時点で空き家率は13.6%に達し、今後も上昇が見込まれている。特に地方では、相続後に手入れが行き届かず、廃墟化するケースが後を絶たない。こうした中、空き家マッチングサービスの役割はますます重要になっている。
今回の鴻巣市の事例は、空き家が単なる負担ではなく、新たな価値を生み出す可能性を示している。適切な買い手を見つけることで、廃墟が地域の宝に変わるのだ。



