「街の銭湯」が高級ブランドへと生まれ変わった。愛知県岡崎市にある老舗銭湯「喜多湯」は、創業100年を目前に、廃業寸前から逆転劇を遂げた。銭湯市場が縮小する中、4代目の喜多裕太氏が手掛けるオリジナルブランド「INASE(いなせ)」が、高級レストランやミシュランの星付き店、さらには高級車ブランド・レクサスの作品にまで採用されるに至った。これは単なる銭湯の再生ではなく、既存の資産を時代に合わせて再定義する「資産の再定義」の好例である。
縮小する銭湯市場と老舗の危機
「風呂離れ」という言葉が定着し、スーパー銭湯やサウナなど入浴施設の多様化が進む中、昔ながらの「銭湯」市場は縮小を続けている。日本の有数の鋳物・銅製品の産地として知られる愛知県岡崎市でも、最盛期には350軒ほどあった銭湯が、現在では70~80軒ほどにまで減少した。そんな逆境の中で、創業100年を迎えようとしているのが喜多湯である。
喜多湯の主力事業は現在も銭湯だが、2016年に家業を継いだ4代目の喜多裕太氏が新たな柱として、銅のブランド「INASE」を育てている。完全オーダーメイドで、購入希望者へのヒアリングを通じて、色味や材質などをすり合わせて銅製品を選定。職人が希望のサイズや形状に応じて一つ一つ制作する。
INASEブランドが生んだ高級路線への転換
銅ならではの重量感や質感を生かした製品は、高級レストランやミシュランの星付き店から支持を集め、国内外で高い評価を得ている。さらに、ものづくりや従来の鋳物・銅像作りで培った加工技術は飲食業界の枠を超えて注目を集め、ミラノデザインウィーク2026(毎年イタリア・ミラノで開催される世界最大級のデザインイベント)では、レクサスの作品「SPACE」の什器に使う銅の加工も同社が手掛けた。
縮小する市場の中で、街の銭湯はどのように新しい事業を育ててきたのか。喜多氏に話を聞いた。
「資産の再定義」がもたらした変革
喜多湯の逆転劇の鍵は、既存の資産を「再定義」したことにある。銭湯という物理的な施設や、銅加工の技術といった目に見える資産だけでなく、地域に根差した信頼や、長年培ってきた職人技といった無形の資産を、現代のニーズに合わせて読み替えたのだ。
喜多裕太氏は「昔ながらの銭湯のままでは、縮小する市場の中で生き残るのは難しかった。しかし、我々が持っている銅加工の技術や、『銭湯』というブランドそのものを、別の形で価値に変えられないかと考えた」と語る。その結果生まれたのがINASEであり、高級車ブランドとのコラボレーションにつながった。
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