「親が残してくれたアパートだから、そのまま持ち続けようと思っています」。相続の相談でよく聞かれるこの言葉に対し、アテナ・パートナーズ株式会社代表取締役の佐嘉田英樹氏は、必ずこう問いかけるという。「これから、その不動産は誰が管理していくのでしょうか」。多くの相談者が一瞬考え込むこの質問には、不動産経営の本質が潜んでいる。
所有よりも管理が重要
相続では「誰が所有するか」に意識が集中しがちだが、佐嘉田氏は「本質的に重要なのは、その後『誰が管理し、運営していくか』だ」と指摘する。不動産は建てた瞬間が完成形ではなく、数十年にわたる管理を通じて初めて資産価値が維持・形成されるという。
実際、同じ時期に建てられたアパートでも、常に満室に近い物件と空室が増え続ける物件に分かれる。建物の構造や立地条件が大差ないにもかかわらず、差を生む最大の要因の一つが「管理」の質だと佐嘉田氏は言う。
管理の範囲は広い
「管理」と聞くと、共用部分の清掃や草刈り、建物設備点検などを思い浮かべる人が多い。しかし、本来の管理はもっと広い範囲を含む。入居者対応、家賃管理、修繕計画、空室対策、資産価値の維持、長期修繕計画の策定――これらすべてを含めて、不動産経営そのものを支える活動が「管理」だ。佐嘉田氏は「管理とは単なる維持作業ではなく、事業としての『運営』だと捉えるべきだ」と強調する。
修繕は投資である
管理の現場でよくあるのが修繕の判断だ。「まだ使えるから先延ばしにしよう」という気持ちは理解できるが、小さな修繕を後回しにした結果、後に大規模な工事が必要になるケースは少なくない。外壁や共用部の傷みを放置すれば、建物設備の劣化が進行し、入居希望者に与える印象にも影響する。ひいては空室率や収益にも影響を及ぼす。佐嘉田氏は「修繕費は単なる出費ではなく、資産価値を維持し、将来の収益を守るための投資として位置づける視点が欠かせない」と説く。
管理の質が入居率と収益性を左右
入居者が住み続けたいと感じる物件には、清掃が行き届いている、設備不具合への対応が早い、共用部が常に整っている、管理会社との連絡が取りやすい――といった共通点がある。こうした積み重ねが入居率や家賃水準に反映される。反対に管理が行き届かない物件では、退去が増え、空室期間が長期化し、収益性が低下する。管理は単なるコストではなく、収益を左右する経営上の重要要素なのだ。
相続では管理責任者を明確に
相続の場面では「誰が所有するか」は話し合われても、「誰が管理するか」まで明確に決められているケースは意外に多くない。例えば兄弟で不動産を共有したものの、誰も現地に足を運ばず、管理会社との連絡も曖昧になっている。こうした状態が続くと、不動産の価値は徐々に低下する。佐嘉田氏は「相続に際しては、所有者を決めるだけでなく、管理責任者を明確にし、必要であれば管理体制そのものを一つのプロジェクトとして組み立てておくことが重要だ」と助言する。利害が異なる関係者の間で役割と責任を整理しておくことが、その後の資産価値を大きく左右する。
不動産は「持つ人」より「管理する人」で価値が変わる
不動産は取得した時点で完結するものではない。本当のスタートはその後の管理にある。建物は時間とともに老朽化し、市場環境も変化し続ける。そうした変化の中で、適切な管理と計画的な修繕を継続することこそが、資産価値の維持と安定した収益につながる。そして必要に応じて大規模なリノベーションを図ることも重要な投資判断となる。相続不動産も例外ではない。誰が所有するかだけでなく、誰が責任を持って管理していくのか。この視点を持つことが、不動産を次の世代へ円滑に引き継ぐための重要な第一歩となる。



