トヨタの水素エンジン戦略、岐路に
世界的な電気自動車(EV)シフトが加速する中、トヨタ自動車が長年推進してきた水素エンジン車の戦略に黄信号がともっている。カーボンニュートラル実現に向けた技術ロードマップにおいて、トヨタはハイブリッド車(HV)や燃料電池車(FCV)と並んで水素エンジンを重要な柱の一つと位置づけてきた。しかし、市場の急速なEVシフトと水素インフラ整備の遅れが、この戦略に影を落としている。
トヨタは2021年、カローラスポーツをベースにした水素エンジン車でスーパー耐久シリーズに参戦。2023年には水素エンジンを搭載した「GRヤリス」のプロトタイプを公開し、量産化への意欲を示している。豊田章男会長は「水素エンジンは内燃機関の可能性を広げる」と述べ、CO2排出を実質ゼロにしながら、エンジン音や振動など車の魅力を維持できる点を強調してきた。
EVシフトの波、水素エンジンに逆風
しかし、世界の自動車市場はEVへの移行が加速。国際エネルギー機関(IEA)によると、2023年の世界のEV販売台数は約1400万台と前年比35%増加し、自動車販売全体の18%を占めた。欧州連合(EU)は2035年までに内燃機関車の新車販売を実質禁止する方針を打ち出しており、主要市場でEVシフトが不可避となっている。
こうした中、水素エンジン車はEVに比べてエネルギー効率の面で劣るとの指摘がある。ドイツのシンクタンク、IFO研究所の分析によれば、水素エンジンのエネルギー効率は約30%で、EVの約70%を大きく下回る。また、水素の製造・輸送・貯蔵には多大なエネルギーとコストがかかるため、トータルでのCO2削減効果も限定的との批判がある。
さらに、水素ステーションの整備も進んでいない。日本では2023年末時点で約170カ所の水素ステーションが稼働するが、EV充電器の約3万基に比べると圧倒的に少ない。このインフラ格差は、水素エンジン車の普及にとって大きな障壁となっている。
トヨタの戦略転換はあるか
トヨタは2023年、EV専用の新ブランド「bZ」シリーズを展開し、2030年までにEVを30車種投入する計画を発表。EVへの本格参入を表明したものの、依然として水素エンジンを含むマルチパスウェイ戦略を堅持している。豊田会長は「一つの技術に絞るのではなく、さまざまな選択肢を用意することが重要」と述べ、特定の技術に依存しない姿勢を崩していない。
しかし、アナリストからは「トヨタの戦略は現実の市場動向と乖離している」との声も聞かれる。自動車調査会社のマークラインズのアナリストは、「水素エンジンは商用車や特殊車両など限定的な用途に留まるだろう。乗用車市場ではEVが標準になりつつあり、トヨタが水素エンジンにこだわれば競争力を失うリスクがある」と指摘する。
トヨタは2024年、水素エンジンの量産化に向けた技術開発を継続する方針を明らかにしているが、市場のEVシフトが加速する中で、水素エンジン戦略の見直しを迫られる可能性もある。カーボンニュートラル実現への道筋は依然として不透明であり、トヨタの選択が今後の自動車業界に与える影響は大きい。



