福井県おおい町の山間部で、住民らが砂防ダムを活用した小水力発電を運営している。売電収入を地域活性化や自然環境の保全に充て、持続可能な地域社会を目指す取り組みだ。
住民出資で発電事業を開始
京都府との境に位置する頭巾山(標高871メートル)から日本海へ流れる南川の上流部。深緑に包まれた渓谷に、県が設置した幅77メートルのコンクリート製砂防ダムがあり、その隣に水車や発電機を備えた「南川サイフォン式水力発電所」が立つ。
発電を担う合同会社「おおい町地域電力」の代表社員・萩原茂男さん(67)は「豊かな水資源からクリーンなエネルギーを人間の知恵で生み出している事業です」と語る。
発電所は、水で満たした管を使うことで途中に高い部分があっても動力なしで水が流れる「サイホンの原理」を採用。ダム湖の水を下流の発電所へ流し、タービン水車を回転させる仕組みで、2021年に始動した。
開設のきっかけは、2011年の東京電力福島第一原発事故後に高まった再生可能エネルギー導入の機運だった。県の調査で南川の砂防ダムが小水力発電に適していると分かり、地元住民や企業の協力と出資により2019年に合同会社が発足した。
売電収入を地域に還元
年間可能発電量は86万キロ・ワット時で、約130世帯の電力を賄える。再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)の認定を受け、1キロ・ワット時34円で売電し、今年度は約2000万円の収入を見込む。
収入の一部は地域に還元される。年200万円で情報誌を発行し、川魚を守る漁協の活動や山と海の資源に関する豆知識を紹介。また、萩原さんが地元の小中学生を発電所に招き、砂防ダムの役割や発電の仕組みを伝える環境学習にも力を入れている。収益が安定すれば、森林保全や河川浄化の活動も本格化させる方針だ。
近年は砂防ダム周辺で清流の水が常に流れるようになり、アユの遡上やホタルの舞う姿が多く確認されるなど、自然の再生も進んでいる。
全国に広がる小水力発電
中塚寛町長(67)は「子どもたちが自然に興味を持ち、環境の大切さを理解する上での発信がすばらしい」と歓迎する。萩原さんは「地域資源を有効活用する事業が豊かな里山を守る活動になった。これからも地域に必要な発電所でありたい」と話し、山あいの発電所を育てていく考えだ。
資源エネルギー庁によると、既存のダムを活用した小水力発電所は2012年にFITが始まって以降、全国に普及し、2025年12月時点で800件を超えた。最多の約70件が認定されている長野県は、急峻な地形から適地が豊富とされ、未活用の適地利用を促すため発電事業者や住民らによる懇話会を今年度中に設立する方針だ。



