運動不足を自覚しつつも「まぁ、大丈夫でしょ」と過信した結果、思わぬケガをしてしまう――。そんな経験は誰にでもあるかもしれない。マイナビニュースが実施したアンケートによると、運動不足を実感している人の約64%が不安を抱えており、そのうち14%が実際にケガをした経験があることが分かった。
運動中のケガは筋力の衰えが原因と思われがちだが、実はケガ防止の鍵はストレッチにあるという。そこで今回は、RIZAPの人気トレーナーである工藤愛さんに、大人がケガをしがちな原因や運動前の準備方法、日常生活で手軽にできる予防ストレッチについて話を聞いた。
なぜ大人はケガをしやすいのか
筋肉は力を発揮するときに「縮む」という動きをするが、しっかり縮むためには、その前に十分に「伸びる」状態である必要がある。しかし、普段体を動かしていないと筋肉が硬くなり、うまく伸びない。脳や体は「伸びるつもり」で動いているのに、実際には伸びないため、限界を超えてプチッと切れたり痛めたりしてしまう。これがいわゆる肉離れなどの原因だ。
さらに、筋肉が伸びないと関節の可動域も狭くなり、本来動かせるはずの範囲まで体が動かなくなる。本来の機能をしっかり発揮させ、関節や腱を守るためにもストレッチは重要だと工藤さんは指摘する。
運動をしていないと「体が固まっている」と実感する機会自体が少ないかもしれないが、筋肉が硬く縮こまると血流が滞りやすくなり、むくみや冷えにもつながると言われている。運動習慣の有無にかかわらず、ストレッチは誰にとっても必要だという。
大人がやりがちな「ケガのパターン」とは
大人が突然動いてケガをしてしまう具体的なパターンについて、工藤さんは「一番多いのは、脳内の記憶が『昔の動けていた自分』のまま止まっていて、体が追いつかないパターン」と説明する。例えば「電車に乗り遅れそうになって急ダッシュした」「階段を駆け下りた」「ジャンプして着地した」といった日常のふとした瞬間だ。
以前、テレビ番組で芸人さんがダンス中にジャンプしようとしてアキレス腱を痛めた場面があったが、あれは典型的な例だという。ジャンプは着地だけでなく、踏み切って飛ぶ瞬間も非常に危険で、ふくらはぎが硬いまま急激に縮めようとすると、引っ張られたアキレス腱に耐えきれずに負荷が集中してしまう。
寒さで体が冷え固まっているときも要注意だ。工藤さんが以前担当したお客様でも、寒い冬の早朝、犬の散歩中に急に引っ張られて踏ん張れず、手首を骨折してしまった方がいたという。とっさの転倒で受け身が取れずに大ケガをするケースもよく見られる。
デスクワークとケガの関係
デスクワークによる影響もケガに関係している。特にデスクワークやスマホの長時間操作による腰のトラブルだ。頭はかなり重い部位だが、背骨の真上に正しく乗っていれば骨で支えられる。しかし、頭が前に突き出た姿勢が続くと、首の後ろや腰椎にダイレクトに負荷がかかり続ける。その結果、背骨まわりの筋肉が固まり、ぎっくり腰や椎間板ヘルニアのリスクが一気に跳ね上がってしまうという。
「久しぶりに走る」「運動会やイベントがある」という場合、理想を言えば1カ月前、最低でも2週間前から準備を始めていただきたいと工藤さんは話す。ハードなトレーニングは必要ないので、まずは自宅でできるストレッチを1日5分〜10分程度行うだけで十分だ。ストレッチを通じて「自分は今どこまでしゃがめるのか」「どこが硬くなっているのか」を把握することで、本番での無謀な動きや無理な負荷を防ぐことができる。
ケガを防ぐ全身ストレッチ3選
初心者でも手軽にできるおすすめのストレッチとして、下半身の「裏側」「前側」、そして上半身の「胸・体幹」を伸ばす3つの種目を紹介する。
1つ目は、下半身背面全体を伸ばす「足クロス前屈」。立った状態で足を前後にクロスさせ、息を吐きながらゆっくり手を床に向かって下ろしていく。床に手が届かなくても問題ない。足をクロスさせることで、左右それぞれの脚を重点的に伸ばせる。ふくらはぎから太ももの裏側、お尻、背中まで全体がしっかり伸びる。左右を入れ替えて、それぞれ息を吐きながら10秒〜20秒ほどキープする。
2つ目は、つまずき・転倒を防ぐ「太もも前伸ばし」。マットやベッドの上に正座のような形で座り、片足を曲げたまま上半身を後ろに倒していく。太ももの前側にある大きな筋肉(大腿四頭筋)は、歩くときや走るときにブレーキをかける役割を持っている。ここが硬くなると足が上がらずつまずきやすくなったり、踏ん張りが利かなくなったりする。特にヒールを履く女性や、日常的につま先重心で歩いている方は非常にこわばりやすい部位だ。体が硬い人は無理に寝転がらず、両手を後ろについて少し上体を倒すだけでも十分。心地よい張りを感じる位置で、片足ずつ20〜30秒ほどキープする。
3つ目は、呼吸を深めて姿勢を整える「胸開き&体幹ひねり」。横向きに寝転がり、両手を前に伸ばした状態から、上側の腕を大きく後ろへ開いて胸を広げる。デスクワークやスマホ操作で縮こまりがちな大胸筋をダイレクトにストレッチできる。同時に脇腹やお腹まわりもねじれるので、普段使われていない体幹の筋肉が刺激される。硬くて手が床につかない場合は、浮かせたまま腕の重みでじわじわと伸ばすだけで大丈夫。どうしても寝転がるのが難しいオフィスなどでは、壁に片手をついて上体を反対側にひねるだけでも同様の効果が得られる。
日常生活でできるケガ予防の工夫
日常生活の中でケガを予防するために意識すべきこととして、工藤さんは「こまめに『背中を丸めて伸ばす』ことと、『水分補給』」を挙げる。デスクワーク中に両手を前で組んで、背中を丸めながらぐーっと腕を前に押し出すストレッチを合間に挟むと、背骨まわりの緊張がほぐれ、筋肉のこわばりをリセットできる。
また、意外と見落とされがちなのが水分不足だ。コーヒーやお酒ばかり飲んで慢性的な水分不足に陥っていると、筋肉の柔軟性が失われて足や背中をつりやすくなる。「お酒を飲んでそのまま寝た翌朝」などは特に水分がカラカラなので、しっかり常温の水を飲む習慣をつけてほしいという。
最後に、これから運動を始めたい読者へ向けて、工藤さんは「運動は『気合を入れて大変な思いをしてやるもの』ではなく、本来は歯磨きと同じくらい日常的な習慣であってほしい」とメッセージを送る。久しぶりに体を動かすときは、初日に張り切って100%の力を出すのではなく、「まずは3日間無理なく続けられる強度」からスタートすることが大切だ。今回紹介したストレッチを日課にしながら、健康的な運動ライフを楽しんでほしいと語った。