人間の高度な知性はいつ生まれたのか。石器の誕生こそがその画期とみなす考えが一般的だが、本書は「知性は石ではなく植物から始まった」という大胆な仮説を提示する。脳科学者の恩蔵絢子氏が、その斬新な視点を評価している。
石器以前の300万年の謎
石器時代の始まりは約350万年前とされる。一方、人類がチンパンジーとの共通祖先から分岐したのは約650万年前。その間の約300万年間、人類は何も作らずにいたのだろうか。本書はこの空白期間にこそ知性の萌芽があったと主張する。
寝床づくりに見る植物の技術
その根拠として挙げられるのが、現在の大型類人猿の寝床づくりだ。チンパンジー、ゴリラ、オランウータンは毎夕、丈夫な枝を選び、小枝を折り曲げて籠状の寝床を完成させる。木の実を石で割るチンパンジーは一部だが、寝床づくりはほぼすべての個体が行い、生涯で数千から数万の寝床を作ると推定される。
これまで石器など日中に発揮される技術ばかりが知性として評価されてきたが、眠るときに発揮される技術は見落とされてきた。この視点に、恩蔵氏は「はっとさせられた」という。
ベビースリングへの応用と知性の進化
人類はこの植物を編む技術を、二足歩行を開始して母親にしがみつく力が弱まった赤ちゃんを運ぶためのベビースリングづくりに応用した可能性がある。樹上から落下し命を落とす危険の中で、植物を編み、子どもをくくりつけて運び、眠りのスタイルを変える中で言葉や記憶が育まれたという物語が展開される。
現代への批評として
植物との関わりの中で知性が育まれたという発想は新鮮だ。本書は、朽ちて証拠が残らない時代のゆっくりとした変化に注意を凝らし、何を知性と呼び、何を見落としてきたのかを問い直す。過去の進化史であると同時に、人工知能が急速に発展する現代への鋭い批評でもある。



