老化の仕組みを研究していたチームが、思春期に多い骨のがん「骨肉腫」の発症メカニズムを偶然解明した。東京大学と慶應義塾大学の研究チームは、細胞分裂のアクセルとブレーキのバランスが骨肉腫の発症に深く関与していることを突き止めた。この発見は新たな治療法の開発につながる可能性がある。
骨肉腫とは
骨肉腫は年間約200人が発症する希少ながんで、患者の多くは10代で、膝関節に発生しやすいことが知られている。現在の治療法では抗がん剤治療と腫瘍切除手術を組み合わせ、5年生存率は約70%に達するが、発見時に転移があると生存率は大きく低下する。
若年者の膝に発生しやすいことから、骨肉腫は体の成長と関連があると長年考えられていたが、詳細な発症メカニズムは不明だった。
老化研究からの偶然の発見
研究を主導した東京大学の山田泰広教授は、もともと老化メカニズムを解明するため、老化細胞のマーカータンパク質「p21」に注目していた。p21は老化細胞で多く発現するだけでなく、DNA損傷に応答して細胞分裂を停止させる「ブレーキ役」としても知られる。
山田教授は、p21が光るように遺伝子改変したマウスを用いて実験を行っていた。そこに、骨の老化研究のために慶應義塾大学の大学院生で医師の齊藤誠人さんが訪れた。マウスを観察したところ、予想外の現象が明らかになった。老化細胞で多く発現するはずのp21が、成長期のマウスの大腿骨先端で光っていたのだ。
「この観察結果が骨肉腫の謎に迫る鍵になるかもしれない」と、骨がん患者も診ている齊藤さんは直感した。
アクセルとブレーキの同時活性化
詳細な分析の結果、p21が光っていたのは成長期に活発に分裂する「骨芽細胞」であることが判明。同時に、細胞分裂を促進する「アクセル役」の因子も活性化していた。つまり、骨芽細胞ではアクセルとブレーキが同時に作動している状態だった。
このバランスが崩れると、細胞分裂が制御不能になり、骨肉腫が発生すると考えられる。研究チームは、このメカニズムが思春期の成長期に骨肉腫が多発する理由を説明できるとしている。
論文は7月15日付の科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に掲載された(https://doi.org/10.1038/s41467-026-74929-6)。この偶然の発見は、骨肉腫の新しい治療法の開発につながる可能性がある。



