kintone活用で電話対応ゼロ、月50時間削減 岐阜の幼稚園が実現した業務改革
kintone活用で電話対応ゼロ、月50時間削減の幼稚園業務改革

サイボウズは、ノーコードで業務アプリを構築できる「kintone」のユーザーイベント「kintone hive 2026 nagoya」をZepp名古屋(愛知県名古屋市)で開催した。本稿では、電話対応ゼロ、月50時間のお迎え対応削減を実現しただけでなく、「先生が子どもと向き合う時間」を取り戻した岐阜県・くるみ幼稚園の取り組みを紹介する。

幼稚園教諭が語る「現場で再構築した業務改善」

幼稚園教諭の谷井友亮氏はプレゼンの冒頭に、「今日は『幼稚園でこんなアプリを作りました』と紹介しに来たわけではない。人が走り回ってつないでいた業務を、kintoneを中心に現場で少しずつ再構築した話をしたい」と述べていた。

電話と“先生のダッシュ”で回っていたお迎え対応

岐阜県岐阜市にあるくるみ幼稚園は、60年以上の歴史を持ち、地域の子育て支援に力を入れる私立幼稚園。園児数約300人に対し、職員数は50人ほど。子どもの成長に応じたカリキュラムを提供し、幼児期にふさわしい生活環境を目指している。

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園では通常保育が終わった後の「預かり保育」のお迎え対応が負担になっていたという。お迎え対応のフローは以下の通り。まず、園児のお迎えに来た保護者が園のインターホンを押すと、職員室の先生が受話器で応対し、オートロックを解除する、という流れが発生する。

その後、職員室の先生は20メートルほど離れた預かり室に電話をかけ、お迎えが来たことを預かり担当の先生に伝える。しかし預かり室では、泣いている子やけんかをしている場合もあり、すぐに職員室の先生からの電話に出られるわけではない。そのため、職員室の先生は預かり室へと走って移動し、直接お迎えが来たことを伝える場合もある。

職員室にいる先生はおたよりの作成やシフト表作成、備品発注、保育日誌の確認など、多くの業務を抱えているが、これらの業務は都度中断されてしまっていた。さらに、預かり保育の延長料金の計算は、熟練のスタッフが紙と電卓で対応しており、毎月8時間を要していた。

担任から保護者への電話は1日120件、属人化が生んだ負担

一方で、お迎えに来た保護者のフローも複雑だ。お迎えに来たらまずタイムカードを記録し、その時間を紙に書いて管理していた。このため、「タイムカードを忘れました」「隣の人のカードを押してしまいました」といったミスも多発していた。職員室の先生はこうした保護者への対応も発生し、長ければ1回で10分以上を要することも。

以前の同園では、担任の先生が「今日○○くんがケガをしちゃって」という話を保護者に伝えたい場合、預かり担当の先生に口頭で「○○君の保護者がお迎えに来たら私に連絡をください」と依頼していた。しかし上記のような複雑な対応に追われ、お迎えの際に担任の先生を呼び忘れることもあったという。そうすると、担任の先生は保護者に電話して連絡する業務が発生する。なんと、多いときには1日120回も連絡していた。これが担任の先生の残業にもつながっていた。

「このような対応が毎日続き、先生たちは子どもと向き合う時間をなかなか取れていなかった」(谷井氏)

kintone導入で改善、それでも現場には新たな課題が残った

くるみ幼稚園では以前から、大阪産業大学と共同で現場の業務改善に取り組んでいた。その中で提案されたのが、kintoneを活用したお迎え対応の効率化だった。まずはICカードを活用した仕組みを導入。保護者がカードリーダーにICカードをかざすと門が開き、登降園情報はkintoneで自動管理されるようになった。預かり室への通知もモニター表示に切り替えられ、延長料金の集計も自動化された。

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しかし、ICカードの忘れ物や紛失、祖父母など登録外の家族によるお迎えへの対応が課題となった。さらに、預かり室では子どもの対応に追われ、モニターの通知を見逃してしまうケースもあり、業務改善はまだ道半ばだった。

子どもの遊びが教えてくれた、業務改善の本質

こうした課題を抱える中、谷井氏は子供たちのブロック遊びの様子を見ていて気付く。「子どもたちは完成形に向かってブロックを組むのではなく、今のかたちを見ながら組み合わせを試して、変えていく。これは業務改善も同じなのではないか」と。既存のシステムに業務を合わせるのではなく、現場に適したシステムを組み合わせる。その中心として大きな役割を担ったのが、さまざまなツールやシステムと連携可能なkintoneだった。

同園ではまず、ICカードを用いた保護者の認証を顔認証へと入れ替えた。タブレットで園児の組と名前を登録する打刻アプリも開発し、顔認証と併用することで、顔認証を登録していない保護者の対応や逆光でカメラが反応しない問題を解消した。兄弟で同じ園に通っている家庭では、「誰が迎えに来たか」は分かっても、「兄と弟のどちらを迎えに来たのか」が分からないケースがあった。この課題も解消された。

さらには、顔認証したらそのまま「○○君のお迎えです」と園内に自動で放送が流れる仕組みも構築した。これにより、園内のどこにいても担任の先生が気付けるようになり、その日のできごとを保護者に共有できるようになった。谷井氏は「園と保護者の信頼関係で最も大事なのは、その日のできごとを直接伝えること。けがの様子や、ちょっと気になること、今日できるようになったことは、後から電話するのではなく直接伝えたい。この自動放送の仕組みは、担任と保護者のコミュニケーションを確実に取り戻す仕組みになった」と強く訴えた。

月50時間削減より大きかった、先生たちの時間と心の変化

自動放送の仕組みは担任の先生だけでなく、園児にも大きな変化を起こした。それは、お迎えの放送で自分の名前が呼ばれると、帰り支度を始めるようになったこと。kintoneを活用した自動化が、子どもたちの主体的な行動まで引き出したのだ。

その他にも、これまで熟練の先生が8時間かけて実施していた預かり保育の料金計算は、わずか10分で誰でも完了できるようになり、属人化が解消された。年間92時間の削減効果だ。毎日10件以上対応していた職員室の先生による呼び出しは0件に。1日最大120回も走り回っていたインターホンの対応も0件になった。引き渡し業務全体では、月50時間の削減効果となった。

しかし、「数字以上に大きかったのは先生たちの気持ちの変化」(谷井氏)だという。先生は走り回る場面が減り、ミスへの不安が減り、子どもたちと向き合う大事な時間が増えた。

谷井氏はプレゼンの最後に、「私はITの専門家ではなく、現場の先生だからこそ、誰がどこで困っているのかがわかった。たくさんの挑戦と失敗を中心でつなぎつづけてくれたのは、kintoneだった。kintoneは紙をデジタルに置き換える道具ではなく、人が行っていた業務の流れそのものを変える基盤になる」と述べていた。さらに続けて「まず作ってみる、使ってみる、崩れたら組み換え、必要なら足す。これで業務を変えられることを子どもたちに教わった」と述べ、プレゼンを結んだ。