「簡単な対応をAIに任せたら、現場には難解なクレーム対応だけが残った」。AIでコールセンター業務を効率化したはずが、かえってオペレーターが疲弊していく。そんな皮肉な状況がいま、多くの職場で起きている。AIが単純な問い合わせを瞬時に捌く結果、人間の手元には「AIでは解決できない複雑な要求」や「怒りに満ちたトラブル」ばかりが残ってしまうのだ。
10月には、法改正により企業はカスタマーハラスメント(カスハラ)対策が義務付けられ、現場を守るプレッシャーはかつてなく高まっている。過酷なクレーム対応の最前線に立つ現場スタッフを、企業はどう守り抜けばいいのか。世界8000超の組織にコンタクトセンター向けクラウド基盤を提供する米Genesysのアジア太平洋地域営業責任者、アルバート・ネル氏に「現場防衛の処方箋」を聞いた。
個人向けAIの広がりで、顧客は「パーソナライズされた体感」に期待
——コンタクトセンターの運営において、日本の経営層はどんな課題や悩みを抱えているのでしょうか。
一般的に経営の上層部は、コストの最適化を課題としており、常に効率化の視点で現場を見ていると思います。これは単純に考えれば、センターのオペレーターの数を減らすことになります。
一方、当社のモデルは、AIと人が協働するものです。AIが過去の購買履歴や問い合わせの文脈を瞬時に分析してオペレーターを支援することで、顧客は「自分のことを深く理解してくれている」と感じます。それによって顧客のロイヤリティ(愛着)が高まり、リピート購入やクロスセルといった収益も生まれます。
コンタクトセンターは、単なるコストセンター(費用がかかるだけの部門)ではなく、利益を生み出す「プロフィットセンター」へと進化するのです。
(自社がクライアント企業の経営幹部に提案する際には)「顧客体感(CX)が事業の要」と伝えています。消費者は製品やサービスだけでなく、CXが良ければ企業の評価が高まります。当社の調査によると、一度悪い体感をすると35%の顧客が離れてしまうという結果が出ています。
個人向けAIが消費者の期待を高めている
今は多くの消費者が、パーソナルAIを使っています。個人が使うAIは、高度に個人向けに調整できます。自分のことをよく知っていて、過去の問い合わせや購買の履歴も内容もすべて把握しています。そのため顧客は、企業にも個人レベルの対応を期待するようになります。
——個人向けAIが、消費者の期待を高めているということですね。では企業のAIは、このまま進化を続ければ、個人向けAIに追いつけるのでしょうか。
ここには非常に大きな機会があると考えています。
個人向けAIは利用者のことをよく知っていますが、そのデータはさまざまなシステムに分散しているはずです。当社は、やりとりの文脈や履歴の情報をすべて持っており、それらのシステム全体を連携させて動かせます。
「簡単な対応をAIに任せる」と残るのはクレーム カスハラ時代の現場防衛