もしもサザエさんの両親である波平とフネに第4子が誕生したら、どんな事態が待ち受けているのだろうか。この一見ユーモラスな仮定は、人類進化における極めて重要な謎——なぜ女性だけが閉経するのか——を解く鍵を握っている。
閉経の進化的謎
多くの哺乳類は生涯を通じて繁殖可能だが、ヒトの女性やシャチのメスなど一部の生物だけが閉経を迎える。総合研究大学院大学統合進化科学研究センターの渡辺佑基教授は、「閉経しなかった場合に噴出する深刻な不都合がわかれば、それを回避する仕組みとして閉経が進化したと言えるかもしれない」と指摘する。
この視点から、18世紀初頭から20世紀初めまでの200年間にわたるフィンランドの人々の生死や家族構成を分析した研究が注目されている。同研究は、女性が老齢まで繁殖を続けた際に起こる意外な不都合を明らかにした。
母娘同時繁殖の悲劇
もし女性が閉経せずに50代、60代、70代と出産を続ければ、母子の同時繁殖が起こり得る。つまり、一人の女性が実の娘と同時期に赤子を産み、三世代が同居することになる。閉経が存在する現実世界では稀だが、可能性はゼロではない。
フィンランドのデータでは、若くして第1子を産んだ女性が45歳前後で末っ子を出産し、その頃に成人した第1子が同時期に自分の子をもうけるケースが稀に見られた。驚くべきことに、こうした稀なケースでは、末っ子と初孫の両方の生存率が通常の半分程度にまで低下したのである。
考えられる理由は、母かつ祖母である女性と、母になったばかりの第1子が、限られた資源をめぐって対立することだ。食料が乏しく医療も未発達だった時代、同時に複数の幼子を養育すれば家庭内の資源分配が切迫する。
サザエさん一家にたとえると?
この状況を「サザエさん」一家に当てはめてみよう。もし波平とフネに第4子が生まれ、同時期にサザエさん(長女)がタラオを出産したとする。すると、フネは第4子とタラオの両方を世話しなければならず、サザエさんも子育てに奮闘するが、限られた家計と時間を奪い合うことになる。結果的に、第4子もタラオも十分な栄養や世話を受けられず、生存率が下がるという悲劇が起きる。
このような母娘同時育児の危機こそ、閉経が進化した根本的理由だと考えられる。閉経によって高齢女性の繁殖を停止することで、母娘間の繁殖競争を避け、祖母が孫の養育に専念できるようになった。これにより、限られた資源を効率的に使い、子孫の生存率を高めることが可能になった。
渡辺教授は「閉経は単なる老化現象ではなく、人類の進化において重要な適応戦略だった」と結論づける。もし波平とフネに第4子が生まれていたら、サザエさん一家は存続の危機に直面していたかもしれない。



