人工多能性幹細胞(iPS細胞)を患者の治療に使うには、安全性と品質を確かめた細胞を、必要な時に安定して届ける仕組みが欠かせない。その基盤を担うのが、京都大iPS細胞研究財団だ。あらかじめ作って保管するiPS細胞ストックを研究者や企業に提供し、今年条件・期限付き承認を受けたパーキンソン病と重症心不全の2製品にも使われた。
専務理事の高須直子氏は、iPS細胞誕生前から山中伸弥教授の特許に携わり、研究成果を医療へつなぐ見えにくい歩みを支えてきた。細胞を作り、守り、届ける現場には、製造、品質、費用という難所がある。患者が普通に選べる医療にするには何が必要か。実用化を支える舞台裏と次の20年を聞いた。
「本当だった」と驚く
--iPS細胞誕生から20年をどう受け止めるか
長いようで短い20年でした。私は2008年に京都大iPS細胞研究所へ移り、ほどなくiPS細胞の、医療用ストックづくりが動き始めました。15年に初めて出荷し、神経や心筋など全国の研究で使われ、今年は2製品が条件・期限付き承認を受けました。多くの研究者や企業が力を合わせた「オールジャパン」の歩みだったと思います。
--山中氏とはiPS細胞誕生前から関わりがあった
住友製薬に在籍していた2003年ごろ、山中先生との共同出願を担当しました。体の細胞を、さまざまな細胞へ変われる状態に戻す「初期化」に必要な因子の候補や、その効率的な探し方に関する特許です。当時、山中先生は奈良先端科学技術大学院大におられ、将来は胚性幹細胞(ES細胞)のように、多様な細胞に変われる細胞を作ると説明されました。本当にできるのかなと思っていましたが、後にiPS細胞が誕生し、「あれは本当だったんだ」と驚きました。律義でまっすぐ、偉ぶらない方でしたが、その印象は今も変わりません。
財団の役割とマイiPS研究
--iPS細胞研究財団の役割は
一言で言えば、研究成果を患者さんへ届けるための基盤を作ることです。基礎研究を医療へ進めるには、臨床用の細胞製造や国の承認に向けた準備など、多くの難しい段階があります。大学や新興企業には、何を準備すればよいか分からないところもあります。患者本人の細胞から作る自家iPS細胞の製造費を下げる「マイiPS」の研究開発も、その一つです。財団は研究開発に加え、製造や規制対応を支援し、実用化までの見えにくい部分を担っています。



